マネージャーが立案する計画は以下の4つの要素の組み合わせによって、複数の種類に分けられます。自らが立てる計画の各要素を検討することで、瑕疵のない計画が立てられます。
1.射程の範囲
広範囲:組織全体に関わってくるような広範囲を射程に収める戦略目標
狭い範囲:戦略目標を具体的にどのように達成するかという比較的狭い範囲を射程にする戦術計画
2.計画の期間
長期:一般的には3年を超えるもの
短期:1年以内のもの
3.特定さの程度
高い特定性を持つ計画=具体的な計画。誰の目にも明確に規定された計画
低い特定性の計画=方向づけされた計画。状況に応じて変化対応する余地を残した計画
4.活用の頻度
1回限りの計画:特定の製品開発計画のように1度しか用いられない計画
継続的に使われる計画:定型作業のシステム化のように、一度仕上がった計画をその後も修正して用いる
計画策定に対する異論・反論
計画を策定することが重要であるという考えについては異論や反論があります。その理由として、以下のようなことが語られます。
- 計画を策定するとそれに縛られ柔軟性が失われたり、事前に予想されない事態に対処できなくなる
- 計画よりも直感や創造性、ヒラメキが重要である
- 計画を策定することで、目標を達成することだけで満足してしまう
計画策定と会社の関係を調べた調査研究によれば、計画の策定が業績の向上に結び付いていることが明らかになっています。しかし計画策定を行う会社は計画策定を行わない会社よりも必ず業績が良いとは言えないこともわかっています。
では、計画を策定するのは意味がないのでしょうか?
計画策定が価値を持つのは、マネージャーが組織の戦略を立てる際に計画を策定する場合です。組織の戦略とは、目標を達成するために何を行い、どうやって競争に勝ち、どのように顧客満足度を高めるかについての組織的な取り組みのことです。組織の戦略を立てる際に計画も策定すれば、計画そのものの価値に加え、計画を策定するプロセスにおいて、新しい手段や手法を見出したり、見落としに気づくことで失敗を回避できるといった効用が期待できます。
計画を策定しても、環境の変化に対応できないという批判の一部は考慮に値します。特に昨今は企業を取り巻く環境変化のスピードが早く、計画は常に陳腐化のリスクにさらされています。(
意思決定に影響を及ぼす環境要因)
そのためマネージャーは具体的でありながら、柔軟性を備えた計画を策定する必要があります。状況に応じて変更ができないような計画は望ましくなく、計画の策定は常に継続するプロセスであるという認識を持つことが大切です。粘り強く計画を修正し続けることが計画の質を向上させることに繋がります。
そして組織の階層をなるべくフラットにして、計画の策定にあたっては組織の下の階層も目標設定に参画できるようにします。組織の下位メンバーが計画策定に関与することで、競合相手が今、何を計画し、どのような活動を始めているのかといった情報が計画に反映されます。これはマネージャーが外部環境をスキャニングする手法の一つである
コンペティティブ・インテリジェンス(Competitive Intelligence)と呼ばれています。
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「組織化」と聞くと、会社組織の再編のような内容をイメージされるかもしれません。しかし、マネジメント機能としての「組織化」とは、仕事の取り組み方や進め方を見直し、効率的かつ効果的な組織にすることです。その結果、組織の再編に繋がることもあります。
下位マネージャーが行う組織化の例としては、これまで一人の営業担当者が既存顧客の対応と新規顧客の開拓を担っていたのを、それぞれ別の担当者が行うことにする、あるいは製造現場の組み立て作業で、これまで2人が行っていた工程を1人に集約するのも組織化にあたります。
マネージャーが組織化を進めるにあたっては、以下の6つのポイントがあります。
@ 専門化による分業
先の営業担当者の組織化の事例がこれに当たります。既存顧客の対応と新規顧客の開拓という仕事を分割し、それぞれ専門に対応する担当者を配置します。
専門化による分業は職務の遂行を効率的にする一方で、仕事を細分化します。そのため過度な専門化は社員からすると、仕事の全体像を見えなくさせ、自分の仕事にどんな意味があるのか、会社にどれくらい役立っているのかがわからなくなります。その結果、モチベーションの低下を招きかねません。
A 仕事の機能に注目した部門化
これは職種別、製品別、顧客別、地域別に組織を再編するといった組織化です。
職種別は最も身近な組織化で、どの会社でも社員数が一定数以上になると製造や営業、仕入購買、総務・経理といった職種別の組織になっています。仕事の進め方を見直したり、業務の一部を外注化するなどにより、この体制を見直すのが職種別の組織化です。
製品別の組織化とは、自社が提供する製品やサービスをいくつかのグループに分け、製品グループごとに担当する組織を設置するというものです。製品ブランドごとに一つの部署が製造から販売・アフターフォローに至るまでを一貫して担います。
自社の顧客を一定の属性によって区分し、それぞれ別の組織が担当するのが顧客別の組織化です。自社が扱う商品・製品・サービスを企業向けと消費者向けに区分けし、それぞれ別の部署が担うように改めるといった例があります。
地域別の組織化とは、たとえば全国をいくつかのブロックに分けて、それぞれの地域に営業所を設立したり、あるいは特定の地域の営業やアフターフォローは代理店を委ねるといったものです。
最近はこうした複数の組織化を組み合わせ、特定の課題やテーマに取り組む
クロスファンクショナルチーム(機能横断型チーム)という組織化も見られるようになっています。
B 権限・責任
権限とは指示や命令を出し、それが実行されることが期待される職位(ポスト)に固有の権利です。権限は計画が適用される範囲(戦略的 or 戦術的)に応じて下位のマネージャーに委譲されます。委譲された権限には任務を実行する義務という責任も伴うようにします。組織化された単位ごとに権限と責任をセットで付与することで、組織は指揮命令系統が整い機能します。
C 管理する部下の数
一人のマネージャーが何人くらいの部下を管理するのかを決定します。通常、一人のマネージャーが管理できる部下の数は6名〜8名程度とされますが、マネージャーの置かれた状況や、部下の経験・能力、職務の性質、業務のシステム化の程度、メンバーの仕事に対するコミットメントの度合い(=打ち込み度)によっても人数は異なります。
またマネージャーは階層が上がるに連れ、予期せぬ不確実性のある難度の高い問題(=構造化されていない問題)に対処する必要があるため、直接管理する部下の数は減らさざるを得なくなります。
D 意思決定のあり方
組織の意思決定をどの階層で行うかについて、なるべく上位階層に集中・集約させるのが「集権化」です。それに対し、より現場に近い所で意思決定ができるように権限を委譲するのが「分権化」です。マネージャーは組織ごと、あるいは作業ごとに、集権と分権をどの程度にするか、あるいはどのように組み合わせて意思決定を行うかを設計します。(
マネジメントにおける意思決定)
E システム化
社員の行動をどの程度まで規則やルール、手続きによってシステム化するかを決定します。システム化を強化すれば、社員は判断を迫られる場面が減り、効率は上がります。一方、システム化されるような業務は今後、Ai(人工知能)によって代替が進むと予想されます。マネージャーが仕事をシステム化した上で、その仕事を外注化するという選択肢もあります。
逆にシステム化を強化せず、権限を現場に委譲し、社員が自主的・主体的に判断し、行動できるようにする手法もあります。この場合は判断の拠り所になる経営理念やビジョン、ミッションなどを明確にして、その浸透を図ることが欠かせません。
マネージャーは以上6つの視点から組織化の程度を決定します。組織化を進めるほど組織は伝統的な組織に近づきます。伝統的な組織の代表例は重厚長大な産業の大企業や官僚組織、軍隊などです。組織には厳格な階層が形成され、メンバーには明確な職務や役割が割り振られます。多くの決まり事や定められた情報伝達のルールがあり、意思決定は上位階層に集中しがちになります。
一方、あえて組織化を推進しないという判断もなされます。そうした組織では階層が少なく、区分けもあまり明確ではありません。職務については必要に応じて随時、見直され、メンバー間の協調が重視されます。業務に関する規則やルールは少なく、意思決定の権限は組織のあらゆる階層や部門に分散されています。
組織化の程度は、組織の戦略、組織の規模、組織が有する技術レベルの程度、組織を取り巻く外部環境の変化の度合いやスピードによって左右されます。組織の戦略が効率や安全性、厳格さを求めるといったコスト管理が重要視され、技術レベルはそれほど複雑ではなく、外部環境の変化が少ないほど、組織化の程度を強化するのが適しています。
経営環境が短期間で大きく変わる現在では、伝統的な組織に代わる新しい組織構造や組織運営が増えています。そうした組織には、以下のようなものがあります。
- チーム組織 : 全体が一つのチームで構成される
- マトリックス組織 : 異なる専門家が集まり課題の解決にあたる
- プロジェクト組織 : メンバーが継続的にプロジェクトチームに属して働く
- バウンダリー組織 : 社内・社外との境界を取り払った組織
- バーチャル組織 : 外部のメンバーが自在に参画する
- ネットワーク組織 : アウトソーシング業者を活用する
どのような組織構造や組織運営であっても共通する現代的な課題は、柔軟な働き方を実現させつつ、どうやって働く時間や場所が同一ではない社員の一体感を作り出すか、そして組織そのものが自律的に学習して環境変化に対応できるようにすることにあります。
【参考ページ】
組織診断のご案内
【参考リンク】
基礎からわかる組織開発
【参考資料】
国家公務員のためのマネジメントテキスト(内閣官房内閣人事局制作・PDF 86ページ)。民間企業でも使えます。
第1章 職場環境・職員意識の変化とマネジメントの必要性
第2章 マネジメントの基盤を作るコミュニケーション
第3章 業務をマネジメントする
第4章 人材をマネジメントする
●基礎からわかるマネジメント・目次
第1章
基礎からわかるマネジメント
第2章
意思決定
第3章 マネジメントの機能 計画・組織化 (このページ)
第4章 マネジメントの機能
リーダーシップ・コントロール
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