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ワークモチベーションの着眼点 組織風土編HEADLINE


組織風土の改革に取り組む前の注意点

「だからウチの会社はダメなんですよ」「ウチはいつもそうじゃないですか」 ・・・
会社員なら誰でもこんな台詞を口にしたり、耳にしたことがあるだろう。
こうした発言は会社の組織風土を問題にしている。

組織風土とは何かについては3つの見方がある。

一つは組織の構造(規模や職位・職階の数、部署や部門の構成など)と、職務遂行のあり方(マネジメント、リーダーシップ、コミュニケーションなど)から構成されるとするもの。

2つ目は組織を構成するメンバーによる主観的、心象的なイメージの総体であるとするもの。

3つ目は組織風土を組織文化として捉え、構成員の行動や意識、意思決定、価値判断、モチベーションに影響を及ぼすとするもの。

経営者や人事担当者の方にとって最も関心があるのは、組織風土を組織文化として捉える見方だろう。
そこでここではこの見方に沿って話を進めることにしよう。



組織風土=組織文化であれば、それをよりよいものに変えることでモチベーションを高めることができる。
だが組織風土を変えるのは長い時間を要するため、着手する前に確認しておきたい事がある。

それは経営者・経営陣が目指す組織風土と現状に質的・量的な差異がないかどうかという点だ。

企業は業績を上げるための集団である以上、その責任を担う経営陣の抱く組織風土と現実が質的に異なっている場合は、これを是正することが先決となる。また、経営陣が目指す組織風土と現状はおおむね一致しているものの、そのレベルや深さが物足りないという量的な差異が存する場合もある。

経営トップ層が描く組織風土を生成・浸透・定着できない会社が新しい組織風土を作ろうとしても、それを企業に根付かせることは難しい。



組織風土を特徴づける7つの要因

こうした組織風土の差異を確認するにはオライリー(O’Reilly)らの研究成果が役に立つ。
オライリーらは実際に企業を調査し、組織風土を特徴づける7つの要因を明らかにしている。

それは
@革新性およびリスク志向

A緻密性(細部にわたりどの程度の精巧さ、分析、注意を向けるか)

B結果志向

C社員志向

Dチーム志向

E積極性(従業員の積極的で競争的な姿勢の程度)

F安定性(成長よりも現状維持を好む程度)

オライリーらはこれらの要因に数値のウェートをつけ、要因ごとの強弱から組織風土の特徴を把握できるとしている。


簡単なインタビューやアンケートによりこれら7つの要因について経営陣と従業員の間の比較をしてみれば、組織風土の質的・量的な差異を確認することができる。両者に大きな差が認められた場合はこれを解消することが当面の課題になる。


実際の組織風土の改革はコッターが8つのプロセスにまとめている。
それによれば組織風土改革は図表で示したような8つの段階に従って順次進行する。

組織風土改革のステップを示した図
組織変革ファシリテーター」より一部加筆の上で引用


改革の初期段階ではトップマネジメントが大きな役割を果たし、中盤にかけてはミドル層の関与が深まり、最終段階では現場の一般社員層が主役になる。

つまり組織風土改革は経営陣、管理職、一般社員といった階層ごとに全員の参画、協力、当事者意識が必要で、こうした機運が醸成されていない段階での組織風土改革は、絵に描いた餅、笛吹けど踊らず、お祭り騒ぎで終わってしまうことになる。



組織文化の重要性を説いた一冊の本

組織風土を組織文化と捉え、業績を左右する要因として注目されるようになった端緒は1982年、ピータースとウォータマンの共著による「エクセレント・カンパニー」という一冊の本だ。


エクセレント・カンパニーの本の表紙
エクセレント・カンパニー



それまで経営学の本流は経営戦略や組織構造、市場シェア、事業ポートフォリオといった調査と分析にあり、合理主義なアプローチで結論、解決策を導き出そうとするものだった。

これに対しピータースとウォータマンは長期間に渡って優良企業であり続ける企業を調べ、こうした企業にはある共通した行動が見られるとした。それは、「行動の重視」「顧客に密着する」「自主性と企業家精神」など人に関するもので、エクセレントであり続ける企業にはこうした行動を起こさせる「共通の価値観」としての組織文化があるとした。

ピータースらは組織にとって大切なのはハードウェアである戦略や構造だけでなく、経営スタイル、制度、人間といったソフトウェアも重要であることを指摘した。

当時のアメリカ企業は日本企業の輸出攻勢の前に青息吐息の状態にあり、人間的な要素こそ競争力の中核であるとしたこの本は、日本企業の強さを連想させ、組織文化の重要性が経営者や研究者たちに認識されるに至った。



共通の価値観を有する組織の例

文化は国や地域のように自由な意思に基づく個人の集まりから自然発生的に醸成される。だが企業という集団は半ば強制的・人工的に集結したものであり、組織文化を育むためには中核となる「共通の価値観」を必要とする。

こうした共通の価値観を有する組織としてはスポーツのチームがある。最近の身近な例として女子サッカーの「なでしこジャパン」を見てみよう。この組織ではメンバー全員がサッカーが好きで、彼女たちは多くの事を犠牲にしながらサッカーに時間を費やしている。

そして、誰もが今よりも上手くなりたいという強い成長欲求を抱き、自己研鑽に余念がない。さらに試合では全ての選手がチームのために自分に与えられた役割を果たすことに専念している。

これを会社組織に置き換えてみれば、全員が仕事が好きで寝食を忘れ職務に没頭し、自分の専門分野で成長するために自己啓発に励み、職務遂行においては自分の職責を全うしようとする、そんな組織風土が形成されていることになる。

共通の価値観の内容に良し悪しや是非があるのではなく、その価値観を共有する度合い、いわば「強い組織文化」が形成されているかどうかが重要となる。

こうした強い文化という組織風土の土台があってこそ、人事制度や教育研修制度、リーダーシップ、コミュニケーションなどの人材活用・人材育成の仕組みが本来の機能を果たす。

人事や人材に関するノウハウやツールは世間に満ち溢れている。だがそれらの働きは組織風土によって大きく左右される。合理的ではなく、矛盾に満ちた存在である人間によって醸成される組織風土は、経営や人事に、そしてワークモチベーションに多大な影響を与えている。



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