労働裁判・重要判例

労働契約法・改正情報


労働契約とは、労働者が企業に労働力を提供することを約し、企業はその提供された労働力を受け取り、賃金を支払うことを約束するという契約です。

こうした労働契約について、これまでわが国には体系的に定められた法律がありませでした。そのため産業構造の変化、人事管理の個別化・多様化、就業形態・就業意識の多様化に対し、法律面で十分な対応がなされませんでした。

そこで平成20年3月から、労働契約の成立や変更に関して、公正で透明なルールを定めた定めた法律である 労働契約法 を施行することになりました。



労働契約法が必要とされる背景


そもそも労働力を売買する労働契約は、企業と個人の間の私的な契約です。民法の契約自由の原則に従って労使双方が自由に契約内容を定めたり、話し合って変更するのが本来の姿です。

しかし、企業と個人が契約を結ぶ時は、企業が圧倒的に有利な立場にあり、労働者は不利な労働契約を結ばされる恐れがあります。

そこで国は私的契約であるな労働契約に介入し、労働基準法で労働条件の最低基準を定め、労働者に不利益となる労働条件を排除したり、使用者に是正を命じるようにしてきました。

今日、労働基準法が排除しようとした過酷で、搾取的、劣悪な非人道的な労働条件はあまり見られなくなりました。それに代わり、就業形態・就業意識の多様化に伴い、労働基準法に定められていない諸問題を巡って、企業と個人間の紛争が増加しています。解雇、雇い止め、懲戒、昇進・降格、職務配置、人事異動、賃金体系の変更、非正規社員の雇用管理、M&Aによる転籍・出向などがその一例です。

こうした労働条件の変更について法律的な定めがないため、企業・行政・専門家は過去の裁判の判例をもとにその妥当性を判断してきました。そのため紛争解決の最終手段は裁判となり、時間的・費用的な面で会社・労働者双方にとって望ましい解決策とはいえませんでした。

そこで労働契約に関する基本ルールを定めた労働契約法を導入することにより、人事労管理上の諸問題への対応が妥当か否かを明確にし、紛争を未然に防止することにしたわけです。労働契約法により紛争になっても裁判まで至らず、紛争解決機関により迅速な解決が図られることが期待されています。

労働契約法は平成24年8月に改正・公布され、有期労働契約に関して規制が強化されました。条文の見出しに下線を引いてある 第18条・19条・20条の新設条文が改正の中心です。


厚生労働省によるリーフレット
労働契約法改正のポイント  (PDF)
労働契約法のあらまし (PDF)






労働契約法の条文


目次

第1章 総則(第1条-第5条)
第2章 労働契約の成立及び変更(第6条-第13条)
第3章 労働契約の継続及び終了(第14条-第16条)
第4章 期間の定めのある労働契約(第17条-第20条)
第5章 雑則(第21条・第22条)
附則  (省略)



第1章 総則

(目的)
第1条
この法律は、労働者及び使用者の自主的な交渉の下で、労働契約が合意により成立し、又は変更されるという合意の原則及び、その他労働契約に関する基本的事項を定めることにより、合理的な労働条件の決定又は変更が円滑に行われるようにすることを通じて、労働者の保護を図りつつ、個別の労働関係の安定に資することを目的とする。

第1条に関する通達



(定義)
第2条
この法律において「労働者」とは、使用者に使用されて労働し、賃金を支払われる者をいう。

2 この法律において「使用者」とは、その使用する労働者に対して賃金を支払う者をいう。

第2条に関する通達



(労働契約の原則)
第3条
労働契約は、労働者及び使用者が対等の立場における合意に基づいて締結し、又は変更すべきものとする。

2 労働契約は、労働者及び使用者が、就業の実態に応じて、均衡を考慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする。

3 労働契約は、労働者及び使用者が仕事と生活の調和にも配慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする。

4 労働者及び使用者は、労働契約を遵守するとともに、信義に従い誠実に、権利を行使し、及び義務を履行しなければならない。

5 労働者及び使用者は、労働契約に基づく権利の行使に当たっては、それを濫用することがあってはならない。

第3条に関する通達



(労働契約の内容の理解の促進)
第4条
使用者は、労働者に提示する労働条件及び労働契約の内容について、労働者の理解を深めるようにするものとする。

2 労働者及び使用者は、労働契約の内容(期間の定めのある労働契約に関する事項を含む。)について、できる限り書面により確認するものとする。

第4条に関する通達



(労働者の安全への配慮)
第5条
使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。

第5条に関する通達



第2章 労働契約の成立及び変更

(労働契約の成立)
第6条
労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する。

第6条に関する通達



第7条
労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的に労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の内容と異なる労働条件を合意していた部分については、第12条に該当する場合を除き、この限りでない。

第7条に関する通達



(労働契約の内容の変更)
第8条
労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる。

第8条に関する通達



(就業規則による労働契約の内容の変更)
第9条
使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。ただし、次条の場合は、この限りでない。

第9条に関する通達



第10条
使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分については、第12条に該当する場合を除き、この限りでない。

第10条に関する通達



(就業規則の変更に係る手続)
第11条
就業規則の変更の手続に関しては、労働基準法(昭和22年法律第49号)第89条及び第90条の定めるところによる。

第11条に関する通達



(就業規則違反の労働契約)
第12条
就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする。この場合において、無効となった部分は、就業規則で定める基準による。

第12条に関する通達



(法令及び労働協約と就業規則との関係)
第13条
就業規則が法令又は労働協約に反する場合には、当該反する部分については、第7条、第10条及び前条の規定は、当該法令又は労働協約の適用を受ける労働者との間の労働契約については、適用しない。

第13条に関する通達



第3章 労働契約の継続及び終了

(出向)
第14条
使用者が労働者に出向を命ずることができる場合において、当該出向の命令が、その必要性、対象労働者の選定に係る事情その他の事情に照らして、その権利を濫用したものと認められる場合には、当該命令は、無効とする。

第14条に関する通達



(懲戒)
第15条
使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。

第15条に関する通達



(解雇)
第16条
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

第16条に関する通達


第4章 期間の定めのある労働契約

(契約期間中の解雇等)
第17条 (下線部分が改正)
使用者は、期間の定めのある労働契約 (以下この章において「有期労働契約」という。) について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない。

2 使用者は、有期労働契約について、その有期労働契約により労働者を使用する目的に照らして、必要以上に短い期間を定めることにより、その労働契約を反復して更新することのないよう配慮しなければならない。

第17条に関する通達



(有期労働契約の期間を定めない労働契約への転換)
第18条 (改正条文)
同一の使用者との間で締結された2以上の有期労働契約 (契約期間の始期の到来前のものを除く。以下この条において同じ。) の契約期間を通算した期間 (次項において 「通算契約期間」 という。) が5年を超える労働者が、当該使用者に対し、現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日までの間に、当該満了する日の翌日から労務が提供される期間の定めのない労働契約の締結の申込みをしたときは、使用者は当該申込みを承諾したものとみなす。この場合において、当該申込みに係る期間の定めのない労働契約の内容である労働条件は、現に締結している有期労働契約の内容である労働条件 (契約期間を除く。) と同一の労働条件 (当該労働条件 (契約期間を除く。) について別段の定めがある部分を除く。) とする。

2 当該使用者との間で締結された一の有期労働契約の契約期間が満了した日と当該使用者との間で締結されたその次の有期労働契約の契約期間の初日との間にこれらの契約期間のいずれにも含まれない期間 (これらの契約期間が連続すると認められるものとして厚生労働省令で定める基準に該当する場合の当該いずれにも含まれない期間を除く。以下この項において 「空白期間」 という。) があり、当該空白期間が6月 (当該空白期間の直前に満了した一の有期労働契約の契約期間 (当該一の有期労働契約を含む二以上の有期労働契約の契約期間の間に空白期間がないときは、当該二以上の有期労働契約の契約期間を通算した期間。以下この項において同じ。) が1年に満たない場合にあっては、当該一の有期労働契約の契約期間に2分の1を乗じて得た期間を基礎として厚生労働省令で定める期間) 以上であるときは、当該空白期間前に満了した有期労働契約の契約期間は、通算契約期間に参入しない。

第18条に関する通達


【概要解説】
2つ以上の有期の労働契約の契約期間が通算して5年を超える場合、労働者が正社員の雇用契約の締結を申し込んだ時は、会社側はこれを承諾したものとなります。ただし、2つ以上の有期の労働契約の間に6月以上の空白期間(クーリング期間)がある場合は、空白期間前の契約期間は通算期間に参入されません。

この契約期間通算5年のカウント開始日は法律公布日である平成24年8月10日から1年以内に定められる施行日以後からとなります。このため、実際に契約期間の通算が5年を超える労働者が出てくるのは平成29年以降になります。

この条項が新設されたことにより、企業は有期の労働契約で働く人の雇用契約が通算して5年を超えた場合、本人が希望すれば期間の定めのない労働契約を締結したものとして扱わなければならないことになります。だたし、契約期間を除く労働条件は従前の有期労働契約と同じでよいとされていることから、必ずしも正社員の労働条件と同じとならない場合も起こり得ます。



(有期労働契約の更新等)
第19条 (改正条文)
有期労働契約であって次の各号のいずれにかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、使用者が当該申込みを拒絶することが客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。

  一 当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること。

  二 当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。


第19条に関する通達


【概要解説】
これは従来から裁判で確立している雇い止め (=有期の労働契約を更新せず、労働契約を終了させること) に関する判例を法律化したものです。

有期の労働契約が形骸化し実質的に正社員の雇用契約と同じような状態となっている場合や、労働契約が更新されることに合理的な期待がある場合は、会社は労働者側から有期労働契約更新の申込みがあれば、客観的に合理的な理由があり社会通念上認められる理由がない限り、労働契約の更新をせずに雇い止めにすることができなくなります。



(期間の定めがあることにる不合理な労働条件の禁止)
第20条 (改正条文)
有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度 (以下この条において 「職務の内容」 という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。

第20条に関する通達


【概要解説】
ここでは有期労働契約で働く人たちの労働条件 (特に賃金) が正社員と異なる場合、その理由は職務の内容や人事異動の有無や範囲によるものでなければならないとされています。

有期労働契約の労働者が正社員と同じような職務をこなし、同じような職責を担い、同じように人事異動の対象となっているよう場合、こうした有期労働契約の人たちの労働条件は正社員と同じ扱いとすることが明文化されています。つまり企業は雇用形態に関わらない均等待遇、同一労働・同一賃金が求められています。



第5章 雑則

(船員に関する特例)
第21条
第12条及び前章の規定は、船員法(昭和22年法律第100号)の適用を受ける船員(次項において「船員」という。)に関しては、適用しない。

2 船員に関しては、第7条中「第12条」とあるのは「船員法(昭和22年法律第100号)第100条」と、第10条中「第12条」とあるのは「船員法第100条」と、第11条中「労働基準法(昭和22年法律第49号)第89条及び第90条」とあるのは「船員法第97条及び第98条」と、第13条中「前条」とあるのは「船員法第100条」とする。

(適用除外)
第22条
この法律は、国家公務員及び地方公務員については、適用しない。

2 この法律は、使用者が同居の親族のみを使用する場合の労働契約については、適用しない。



以上






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ご挨拶


人事コンサルタント・特定社会保険労務士の梶川です。大阪で人事コンサルティング事務所 オフィス ジャスト アイを運営しています。主な業務は採用や人事評価、人材育成などを支援する人材アセスメントと、社会保険労務士業務です。

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