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ワークモチベーションの着眼点 成長HEADLINE


モチベーションに深く関わる成長実感

モチベーションの古典理論とされるマズローの欲求5段階説では、最上位のモチベーションとして「自己実現」を挙げている。また、最新のモチベーション論においてはマクレランドが「達成欲求」が最も重要であるという論を展開している。

これらはいずれも人を一歩上のステージに引き上げる「成長」と深い関わりがある。

若手・中堅社員は仕事を通じて自らの成長が実現できないとモチベーションは下がり、仕事以外に自己実現の場を求めたり、最悪の場合には退職に至る。いずれも企業にとっては望ましいことではない。


昨今、折に触れ、新卒採用後3年以内に退職する大卒の新入社員が3割を超えるという厚生労働省の調査が紹介される。また、企業によっては中核・コア人材として期待されている中堅社員の離職に悩まされているところも珍しくない。

離職の原因はさまざまあるが、成長できないことへの不満も大きな割合を占めている。成長に対する憧憬は若者の特権だが、一方で彼らは成長することに対して強迫感や切迫感に近い感情を抱いている。

現在の新入社員は物心のついた時から企業の統廃合やリストラにより大人たちが職を失う場面に遭遇してきた。会社は自分たちを守ってくれるわけではなく、自分の身は自分で守るしかないことを肌感覚で知っている。そのため会社に依存しない生き方ができるよう能力やスキルを身につけ、エンプロイアビリティ(雇用される能力)を高める必要性を感じている。



キャリアと向き合う機会が乏しい日本の学生

若手社員が成長について強迫感や切迫感を抱くのは日本の学校教育も深く関わっている。

欧米の学生は進路選択と職業選択が連動しており、高校や大学、専門校といった進路選択をするごとに職業選択の範囲が絞り込まれる。授業においても自らの意見や考えを述べ、他人と議論を深めること通じて自らのアイデンティティを確立していく。

学生時代において自分は何者で、どんな事柄に興味・関心があり、その事と社会における関係性から何を学ぶことが自分の価値観に適しているかを思索しながら進路や専攻を決めていく。卒業後も長期間のインターンにより実際に働いた上で、自分の目指すキャリアと職種とのマッチングを検証する。こうした過程で学部や専攻の変更といった路線の軌道修正も行われる。

欧米の学生は10年近い年月を費やし、試行錯誤を繰り返しながら徐々に自らのアイデンティティを確立し、職業を決めていく。だから正社員として仕事に就いた時には自らのキャリアの方向性はほぼ固まっている。

これに対し日本では学校教育と職業選択の連係が薄く、学生は自分は何を学ぶべき存在なのかを意識することなく、偏差値により進める学校・大学に進学し、学部を専攻する。授業や講義は聴くことが中心で、議論を通じて自らの考えを主張し、他者から反応を得る機会が少ない。

そして卒業が近くなった段階で突然、自己分析と志望動機という自らのアイデンティティと向き合わされ、将来のキャリアプランをエントリーシートに描くことを迫られる。付け刃で考えた内容は空虚で希薄なものだが、それでも何とか入社にこぎつける。それは「就職」ではなく「就社」というのが実態で、それまでの学びと職業の選択に繋がりがない。

つまり日本の学生は実際に入社してから自らのキャリアを模索するスタートラインに立つことになる。

このため、欧米の学生に比べ成長のために残された時間が少なくあせりを覚えるし、キャリアを見つけるための機会が乏しいと判断すれば簡単に退職する。中堅クラスに近くなり本当に自分のやりたいことが見つかり、キャリア・チェンジをしようと思えば退職するしか道がない。



成長することを目指す若手社員の写真





成長を支えるのは多様性

企業が社員の成長を支援し、モチベーションを向上させるためのカギは 多様性 にある。その一つは人事制度に求められる。

現在の人事制度の多くは新卒・男子の正社員向けに構築されたものであり、それ以外の人たちにはオマケの制度が申し訳程度に用意されているに過ぎない。今や就業者に占める男性の正社員の比率は50%を切っており、若年者、女性、高齢者、外国人といった多様な属性の労働者が、派遣、請負、パート・アルバイトといった多様な雇用形態で就労している。

さらに今後は準正社員や短時間正社員、職務職種限定社員といった働き方も増えてくる。副業や一度退職した社員の復帰を認める企業も出始めた。

こうした状況では新卒・男子の正社員に特化したような人事制度では多くの人材の成長を支援することはできず、結果として退職を防ぎきれず、競争力の低下を招くことになる。

また人事制度の設計思想においても、全員がゼネラリストの管理職を目指すことが基調になっており、社員の多様なキャリア志向に応えていない。管理職昇進コースからはずれた人材は閑職で塩漬けにされるか、早期退職の道しか用意されていない。

考えてみれば全員が管理職というポジションに優れた適性があるとする前提は不自然だが、日本では管理職は「マネジメントという役割を担う人」という位置づけではなく、一種のステータスや成功の証となっている。管理職に昇進する人がエライ人で、それを目指すことが社内での唯一絶対的な価値観となっていることが多い。

リゾートホテルの運営で知られる星野リゾートでは、管理職は「ディレクター」と称され立候補制になっている。自らやりたいこと、目標とすることがある社員は立候補して、メンバーの前で目指す内容のプレゼンを行い、メンバーの賛同を得てディレクターに就任する。そして定めた目標が達成できれば、その人はディレクターからはずれ、次にやりたい事がある人が手を挙げる。

ここでは管理職というポジションは肩書ではなく、職務上の役割になっている。



多様性に欠かせない企業の成長

多様性は仕事の場、活躍の機会の提供にも求められる。企業が社員の多様なキャリアに応えていくためには多様な仕事、多彩な活躍の場を作り出す必要がある。そのためには企業自身が成長することが必要になる。

成長している会社には新しい製品・サービスがあり、新しい製造手法・販売ルートが生まれ、新しい顧客・取引先に恵まれる。常にイノベーションが起り、未知の分野の仕事があり、挑戦できる場が用意される。企業の成長が社員の成長に繋がり、次に成長した人材によって企業の成長が後押しされる。企業と社員は相互的な関係にある。

実は高度経済成長期の日本企業はそうした状況にあった。社会全体が右肩上がりに成長し、社内はいつも新規性のある仕事に満ちていた。人員は慢性的に不足気味で、新規の仕事や未知の職務は否応なく、若手社員が担うことになった。得体のしれない仕事に中堅社員やベテランを割く余裕はなかったからだ。そのため企業は特段の配慮をしなくても、人材が成長する環境にあった。

近い将来、このような状況が再現されることは考えにくいため、企業は社員の成長に積極的に関与していくキャリア開発支援が求められる。



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