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人材を活かして育てるキーワード その4
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会社が行う人材育成の主要な3本柱は、OJT、OFF−JT、自己啓発とされています。このページでは、この3つの方法を有効に働かせるための方策をご紹介します。


第1章  基本となるOJT

中堅社員の人材育成 OFF-JT

仕事を通した人材育成と能力開発


第2章  岐路に立つ日本の人材育成

第3章  これからの人材育成のあり方


 【関連】 人材育成に取り組む各社の事例

教育訓練体系の作り方

人材育成のための学習モデルと学習理論





基本となるOJT


OJTは「職場の上司や先輩が、実際の職務遂行を通じて訓練や能力開発を行うこと」と定義されます。日本の会社では人材育成と言えばOJTと言われるくらい、OJTは人材育成において中心的な役割を担っています。

しかし、計画を立て、目標や期限を定め、結果を評価し、次の計画に反映させていく、といったようにOJTを「仕事」として位置づけ、実施している会社は少数です。OJTを仕事として扱うには、次のような仕組みを整えることから始めるとよいでしょう。


誰が誰を教育するのかという役割を決める

これを決めないままOJTを始めると、教えることが好きな人が、たまたま時間のある時に、気になった後輩に行う、といった水準に留まるため、継続性に乏しく、教育効果は期待できません。


目標・ゴールを定める

技能やスキルは具体的な達成目標を設定します(例・○○が出来る、○○が扱える、など)。意欲や態度といった心理面・行動面の目標は、目指すべき具体的な態度や行動の具体的な事例を列挙し、その行動がどれくらいのレベルで実践できているかを、数段階の指標(例・いつも行っている、時々見られる、など)を使って確認するようにします。


実施期間を定める

OJTの実施期間は、一つの目標・ゴールごとに数カ月ぐらいに収まるようにします。最初から複数の目標を、年単位のような長い期間で設定すると、目標が曖昧になり、成果の確認や修正も疎かになります。担当者と受講者の負担も重くなります。


育成上の問題点や課題を見つける

何を教育するのかという課題を明らかにします。そのためにはOJTを受ける社員からの聞き取りや面談、詳しい行動観察記録といった情報の収集が必要です。


実施時間を決める

OJTは就業時間内に行うのが原則です。これによりOJTは教える側・教わる側双方にとって仕事・職務という位置づけになります。


方法や手法を常に見直す

全員一律のOJTは新入社員に対して行う場合以外は効果が見込めません。受講者の能力レベルや意欲、態度、性格によって効果的な方法をさまざま試しながら、その人に合った最適な方法を見つけるようにします。OJT担当者同士が定期的に集まり、意見交換や情報共有の場を設けることも効果があります。



このようにして仕組みが整うと、OJTを担当する社員には新しい仕事が課せられることになります。そのため、従前の仕事の役割分担の見直しが必要になり、それに連れて他のメンバーの仕事も変更されることがあります。

そして実際にOJTが始まると、OJTの実施担当者は定期的に部門責任者に進捗状況を報告し、必要に応じて手法や計画の見直しを行います。目標期日が来れば、OJT担当者だけでなく部門責任者も結果の評価を受けるようにします。そのためには人事評価や目標管理においてOJTを評価し、フィードバックできるようにしておく必要があります。


無料ツールで、OJTを実施する際に使えるOJT・必須3点セットをご提供しています。




中堅社員の人材育成 OFF-JT


OJTは基礎的な知識やスキルを修得するには適していますが、一通りのことが、不測の事態に直面しても自分一人で対処でき、後輩の指導も行えるようになると、OJTでは人材の育成は図れなくなります。

そこで、次の段階で重要になるのがOFF−JT(職場を離れて行われる教育訓練)による人材育成です。OFF−JTの方法は、社内で企画を立て、外部から研修講師を呼んで来て行うやり方と、業界団体や教育研修機関などが主催する研修会や公開セミナーを受講させる方法があります。

社内で企画し実施する場合は、参加人数が多く、社内で広く共通性・汎用性のある課題を学習する場合に適しています。安全衛生教育やコンプライアンス研修などです。社外の研修会・セミナーへの参加は、社内に専門的なノウハウが乏しい課題をテーマにしたものに、一部の職種・階層の社員を参加させる場合に適しています。管理職向けのマネジメント研修や、営業担当者向けのコミュニケーション研修などです。


厚生労働省の平成30年の能力開発基本調査によると、@実施したOFF−JTの研修テーマと、A階層別の実施状況は以下のようになっています。


@実施したOFF−JTの内容・複数回答(20%以下の回答は省略しています)
OFF-JTの研修テーマを示す統計グラフ

2位の「マネジメント」、3位の「新たに中堅社員になった者を対象とする研修」が中堅社員向けと思われます



AOFF−JTの階層別の実施状況
OFF-JTを実施した階層を示すグラフ
中堅社員層への実施が最多になっています。



また、過去3年間のOFF−JTの支出が増加傾向にあると回答した企業の数は全体の25.1%を占め、減少したとする5.7%を大きく上回っています。そして今後3年間にOFF−JTの支出を増加させる予定と回答した企業の割合は36.6%で、より一層増える傾向にあります。


今後3年間にOFF-JTの支出を増加させる企業の割合を示したグラフ




OFF−JTの進め方

社内で企画・実施する研修では、研修会社や研修講師と打ち合わせをしながら、研修の内容を決めていきます。この時、打ち合わせに入る前に、教育訓練体系を確認し、研修の目的や狙いを具体的な表現で特定できるまで煮詰めておきます。目的が抽象的で曖昧な内容に留まっていると、打ち合わせをしても結局、研修会社・講師に丸投げになってしまい、成果は期待できません。目的が定まれば、自ずとゴールも定まるくらい、具体性を持たせるようにします。

【関連するページ】教育訓練体系の作り方


目的や狙いが定まれば、研修の中身やテーマの設定、進め方などを検討します。最後に研修会社や研修講師の選定、受講対象者の人数、実施時期、実施場所、予算といった詳細を決めていきます。

社外の研修会や公開セミナーに参加させる場合は、実施される研修内容に適した受講者を選びます。ここで問題なのは、多くの会社は研修に参加させる受講者を選ぶ際、年齢や勤続年数、部署、職種、資格等級といった区分で行っており、全員一律の研修になってしまっていることです。

例えば営業担当者向けのコミュニケーション研修であれば、自社の中堅クラスの営業担当者全員が受講します。十分コミュニケーション能力が高い社員も参加する一方で、若手クラスで本当にこの研修を必要とする担当者は選ばれません。これでは人選に問題がある上、経費もムダになります。社員の能力レベルの違いを見極めた上で、参加者の選定を行うことが望まれます。


【参考情報】
当事務所では研修テーマに応じて受講すべき社員を適切に選べる 個人特性分析 という人材の診断・分析業務を行っています。「個人特性分析」により、社員一人ひとりについて強化を図るべき課題がわかるので、研修テーマに合った社員の選抜が可能になります。



社外の研修会・セミナーに参加させる場合は、受講者の直属の上司にも研修の内容を周知させておく必要があります。何を目的にし、修了後はどのような成果をもたらすことを期待している研修なのかのかを伝え、理解させておきます。これを怠ると、上司は受講者に参加前の動機づけを図ることができません。

具体的には、@現状を踏まえた上で研修の目的を理解させる、A上司の立場から見た研修への期待を伝える、B研修で何を得て来て欲しいかというメッセージを伝える、といったことができません。そのため、『たまには仕事を離れて、羽を伸ばしてくるといいよ』といったような勘違い発言で、研修に臨む部下の姿勢や心理にマイナスの影響を与えかねません。

これでは、受講者は研修修了後、学んだことを実践する機会も与えられません。その結果、研修は単に行っただけ、参加しただけで終わってしまいます。OFF−JTで学んだことが実践されないことは、目先のマイナスだけでなく、長期的にも大きなマイナスになります。なぜなら、中堅クラスの人材育成は仕事を通じて学ぶことが決定的に重要だからです


学習モデルと学習理論のページでは、経験から学ぶことの重要性を解き明かした研究成果をご紹介しています。



誰かから何かを教わる段階が終われば、実践を通じて自ら何かを学び取り、自己啓発 により能力開発を進め、自発的に成長するしかありません。そのためにはOFF−JTで学んだことを試してみることが大きな意味を持ちます。そのため直属の上司の方にも研修の内容を理解してもらい、部下が研修で学んだことを実践できるようにしておく必要があります。


次のセクションでは、この仕事を通じた人材育成と能力開発について詳しく見ていきます。 なお管理職の育成については、「管理職に求められる能力」のページで詳しく解説しています。




仕事を通した人材育成と能力開発


仕事を通じて人材育成と能力開発を進めるためのポイントは、部署の目標達成と人材育成・能力開発を切り離さず、業務プロセスの管理手法と同様、計画・PLAN→実行・DO→評価・CHECK→改善・ACTというPDCAのサイクルが回るようにすることです。

PDCAサイクルを示したイラスト



計画・Pの立て方

多くの会社では年度の始めに目標設定がなされますが、ここで上司・管理職は部下の人材育成の目標を設定し、部下は自らの能力開発目標を定めます。これが最初の「計画・P」にあたります。

人材育成目標・能力開発目標は、@出来ないことが出来るようなる A取れなかった行動が取れるようになる B新しい知識を習得する C既存のスキルに習熟する D「強み」を活かす・「弱み」を克服する、といった内容になりますが、漠然として困難を感じることも多い上に、設定された内容が妥当なのかどうかを判断することも難しいです。

そうした場合、目標設定にあたっては人事評価における上位階層の評価項目を参照するようにします。人事評価がない、あっても形骸化しているという場合は、中堅といってもまだ若手階層であれば経済産業省が提唱する社会人基礎力、中堅階層以上はマネジメント・ディメンション(PDF)、部門別・職務別では中央職業能力開発協会が公表している職業能力評価基準を参考にすれば、実際の職務に関係した目標設定が可能になります。

目標設定にあたっては、「短期目標と長期目標」「会社の目標と個人の目標」という2つの軸で構成される4つのゾーンを意識するとよいでしょう。短期目標は目先の数年間の目標であり、長期目標はキャリア開発の目標になります。会社の目標は人材育成目標となり、個人の目標は能力開発目標になります。


目標を設定する際に意識すればよい4つのゾーンを示したイラスト


こうして設定された目標は、目標であっても人事評価や目標管理制度の評価対象にはしません。人事評価や目標管理制度は半年・1年という短期間の成果に関する評価であり、人材育成や能力開発の目標を評価するには短すぎます。



実行・Dと評価・Cの進め方

人材育成・能力開発の目標を設定する「計画・PLAN」が決まれば、次は「実行・DO」と「評価・CHECK」に進みます。社員や部下は設定した能力開発目標を意識して仕事にあたりますが、中堅クラスになると誰しも、スポーツ選手のフォームのように知らず知らずのうちにクセが出たり、身に付いた馴染みのある収まりのよい行動を選択しています。

「弱み」や課題を克服するような目標は、こうしたフォームを矯正することであり、「強み」を活かす・伸長させる目標は、クセのあるフォームを持ち味にまで高めることです。

どちらの場合も自主的に仕事の進め方や取り組み方を変えていく行動(=自発的なジョブデザイン)や、社内・社外の関係者を巻き込む行動(=ネットワーキング)が求められます。上司・管理職は部下がこうした行動ができるように促し、支援していきます。

また、上司・管理職は部下に対し、日常のコミュニケーションを通じて、仕事を通じて能力開発が進む行動ができているかどうかの振り返りを促します。これが「評価・C」に相当します。

この時は、コーチングの「傾聴」のスキルを用いるとよいでしょう。話をとにかく受け入れる「受容」、考え方を重んじる「支持」、話のポイントを別の表現で投げ返す「繰り返し」、気持ちを聞こうとする「明確化」などがあります。コーチングについてのブログはこちら

これらはすべて対話を通じてなされますが、その際は「質問」のスキルが効果的です。最も手軽で効果のある質問は「なぜそう思う?」「君ならどうする?」「例えば?」「他には?」「一言で言うと?」の5つです。この5つを「なぜ・君は・例えば・他に・一言」と覚えて、呪文のように繰り返すだけで、ある程度、対話のキャッチボールが進み、部下は自分で能力開発目標と現在の自分の行動の関係を考えるようになります。

仕事が一区切り・一段落する、あるいは期末を迎えると、その間の行動を振り返る評価を行います。ここでは、仕事を通じて自発的な学びが進むようなフィードバックが効果を発揮します。具体的には「実践」「教訓」「反復」「原則」「共有」「伝承」「触発」という7つの視点(PDF)により、部下本人が仕事から何を学んだのか、次にどんな行動を目指せばよいかを整理できるようにするとよいでしょう。

この「実行・D」と「評価・C」のサイクルを折にふれ、飽きずに何度も繰り返すことが現場における人材育成の核です。人材育成は数年の期間をかけて目標の達成を目指すという息の長い取り組みです。そのため上司も部下も、どれだけ自然に、意識せずに実践できるかが定着のポイントです。



こうして見ると職務遂行を通じての人材育成の決め手は、上司と部下との対話力、コミュニケーションの質と量にあります。当面の業績に直結する仕事に忙殺されている管理職に人材育成に割く時間的な余裕は乏しいのが実情です。しかし、部下を育成しないから部署の目標が達成できず、プレイングマネージャーはますますプレーヤー化するという悪循環から抜け出せないのも事実です。

管理職の自助努力に加え、経営陣は管理職に仕事の進め方や中身を見直しさせる、あるいは半ば強制的に権限を部下に委譲させることで、部署の目標達成を目指しながら人材育成を進める方向に意識を向けさせる必要があります。会社によっては管理職に連続した休暇を取得させ、嫌でも部下を育成しなければならないように仕向けているところもあります。

それと同時に、経営陣・役員も部下である管理職の人材育成に取り組む必要があります。人は自らが育てられた経験や実感があってこそ、他の誰かを育成することができます。

人材育成は経営陣、人事担当者、管理職、社員、それぞれが相応の役割を担っていると言えるでしょう。



腕組みをして並ぶ男女3人のの写真
仕事を通じてこそ人は育ちます








【関連情報】
人材育成に取り組む各社の事例

人材育成のための学習モデルと学習理論

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岐路に立つ日本の人材育成


日本企業の強みは人材育成にあると言われてきました。しかし、最近は多くの会社で人材育成が難しくなっており、今後もその傾向が続きそうです。なぜ、人材育成が上手く行かなくなってきたのでしょう。


@OJTの機能不全


これまで人材育成の中心はOJTでした。ところが最近、企業の現場からはOJTが上手くいかない、という声が聞こえてきます。 その理由としては次の3つがあります。

理由 その1 仕事の進め方の変化

組織の階層が減りフラット化が進んだことや、部門横断的なプロジェクトチームで仕事を進めるケースが増えたこと、情報通信機器が発達したなどにより、上司が部下と直接顔を合わし、指導しながら仕事を進めるという機会が減っています。


理由 その2 雇用関係の変化

終身雇用制度が終わりを迎え、家族主義的な雇用関係が薄れつつあります。このため上司や管理職は部下を育成するという使命感・責任感が希薄になり、部下も育てられることを期待しなくなってきました。


理由 その3 技術革新の速さ

技術革新のスピードが早く、上司がかつて身につけた知識や経験が急速に陳腐化し、役に立たなくなっています。そのため上司は今、現場で必要としている専門的なスキルや最新のノウハウを部下に教えることができなくなってきました 。


逆の見方をすれば、これまでOJTで人材が育成できた背景には次のような条件があったことになります。

  • 仕事は所属部署単位で行われ、メンバーの顔ぶれはいつも同じだった
  • 雇用関係は長期に渡り安定して、社員同士は家族のような関係だった
  • スキルやノウハウは経験によって習得し、習熟によって蓄積することができた


A成長の鈍化


かつての高度経済成長の頃の日本企業では、たえず新しい仕事が舞い込み、新規事業計画が立てられ、前例のない技術革新が続きました。社内には新しい部門ができ、人員は増えて行きました。

社内は慢性的な人手不足で、誰も経験したことのない新規の仕事は、主に若手社員たちに委ねられました。モノになるかどうかわからないような仕事に、多忙なベテラン社員を当てる余裕はなかったのです。

このため、若手社員は無理矢理、新規の案件を任されることになり、仕事を通じた人材育成のプロセスである「計画(PLAN)→ 実行(DO)→ 検証(CHECK)→ 改善(ACT)」という PDCAサイクルが回っていました。会社は特段、人材育成を意識しなくても自然に人材が育つ環境にあったのです。

しかし、現在では企業の成長が鈍化し、若手社員が新規案件に関わる機会が少なくなっています。また、企業は目先の効率を優先させ、新しい仕事は経験豊富なベテランに任せたり、リスクを避けるため外注する傾向にあります。このため若手社員が仕事を通じて自ら学ぶ機会が減少しているのです。


B多様化する社員


かつて日本の職場といえば、新卒・男子・正社員が主流で、それ以外の従業員は臨時的・補助的な要員として扱われていました。しかし、現在はさまざまな属性の労働者(女性、高齢者、若年層、中途採用者、外国人など)が多様な雇用形態(パート・アルバイト、限定正社員、契約社員、派遣労働など)で就労することが一般的です。

そして今後この傾向は、労働人口の減少やライフスタイルの多様化、労働関連の法律改正(労働基準法、労働契約法、高年齢者雇用安定法、パートタイム労働法、労働者派遣法など)により、一層進むことになると思われます。

企業にはこうした多様な属性と雇用形態の労働者を臨時的・補助的要員としてだけでなく、戦力化することも求められており、彼らに対する人材育成が欠かせなくなっています。

多様な属性と雇用形態の労働者は仕事や組織に対しても多様な価値観を有しており、そうした個別のニーズにマッチした人材育成策が求められています。そのため従来の階層別研修に代表されるような一律の研修だけでは、人材育成の効果が期待できなくなっています。


Cミスマッチの発生


終身雇用制度が崩壊したため、若手社員を中心に自らの職業人生を会社に委ねてしまうリスクを感じています。自らの手で雇用される能力(=エンプロイアビリティ)を高め、キャリアは自己責任であるという考え方が広がっています。

一方、会社側は当面の経営戦略や事業計画に必要な人材に対する投資を行う傾向が強まっています。そして、昨今は経営戦略や事業計画が短期間に大幅に見直しされることがあります。こうなると社員は2階に上がって階段をはずされた状態になりかねません。事業撤退による中高年エンジニアの配置転換などはその典型です。

終身雇用制度の終焉により、成長や能力開発に対する社員と会社の間にはニーズや目的、方向性にズレが生じています。こうしたギャップがあるため既存の人材育成策が上手く働かなくなっています。


次のセクションでは、こうした状況を踏まえ、今後の人材育成のあり方を考えます。




こちらでも、ヒントが見つかるかもしれません↓
事務所新聞のページへ案内する画像リンク





これからの人材育成のあり方


これまで見てきた状況を踏まえると、今後の人材育成は、@仕事を通じて人を育てるOJTの機能を再現させること、そしてA成長や能力開発に関する会社と社員のミスマッチを解消すること、この2つがポイントになります。


@OJTの再現


かつてのように、仕事を通じて人材を育成してきたOJTを機能させるには、仕事や業務プロセスを再編成し、高度経済成長時期と同じような状況を意図的に作り出すことが必要です。そのために欠かせないのが企業の成長です。

企業が成長すると、顧客・製品・サービスが変わり、仕事の流れ、要求される仕様、期待される内容が変わっていきます。外部との関係に変化が生じ、組織が変わっていきます。企業が変化を望んでいなくても、環境の変化に対応を迫られ、変化が生じる場合もあります。

変化の事例を挙げてみましょう。

  • 新しい市場への参入
  • 新しい分野での製品開発
  • 提供するサービスの質的転換、抜本的見直し
  • 新しい販売・仕入・購買ルートの開拓
  • 営業・サービス地域の多様化
  • 営業手法や製造工程の見直し
  • 組織やチームの新設、分割
  • 組織の消滅、統廃合、再編成
  • 他社との業務提携



こうした変化により生じる新しい業務プロセスには前例がなく、社内に経験者もいません。人材を育てるには、こうした新規の業務プロセスを若手に委ねたり、メンバーの一員として参加させるようにします。許容できる範囲内で権限を与え、期待する役割を示し、自らで課題を見つけさせ、目標を設定させます。身体的・精神的許容内で負荷をかけ、あえて試行錯誤をさせ、フィードバックを与えます。

新しい業務プロセスを若手社員に委ねたり、関与させれば、責任や期待が生じ、企業の成長に貢献する自らの役割を実感できるようになります。新しく課せられた責任を果たしていくこと、期待に応えることで、自らの成長を感じることができます。企業の掲げるビジョンに貢献することや、企業の成長に合わせ自分も成長できることがモチベーション向上につながります。

そうした過程で、経験を通じて自らの能力を知り、譲れない価値観を理解し、成長感が得られます。効率は悪く、リスクは高いかもしれませんが、それが人材育成につながります。これがOJTに代わる新しい教育訓練になります

企業が成長することで人材が育ち、その育った人材が企業の成長に貢献する、こうしたサイクルが繰り返されます。人材を育成するためには、企業自身の成長も欠かせません。企業の成長と人材の育成は相互補完的な関係にあります。



Aミスマッチの解消


人材育成が上手く行かなくなった背景には、会社の人材育成の目的と社員のキャリア観のミスマッチがあります。このミスマッチを解消するには人材育成に キャリア開発 の視点を取り込むことです。

キャリア開発というと他社でも通じるような資格や免許、スキル、実務経験を得ることだ、と思われるケースがあります。しかし、そうではなく、キャリア開発とは、仕事を通じて自らがどうありたいのか、どういう状態で仕事に望みたいのか、働く意味や目的は何か、それを見つけることや認識することです。キャリア開発についてのブログは、こちら

人材育成にキャリア開発を取り込むことで、社員は会社が用意した人材育成の仕組みを利用し、自らキャリア開発を進めることができます。そして、会社は人材育成を通じて社員の自律的なキャリア開発を支援する側に回ることになります。


そのための具体的な策は次の通りです。


@キャリアの核を明らかにする

キャリアの核とは、仕事や職業人生における譲れない価値観、惹かれる方向性、やり甲斐を覚える分野、大事にしたい基本方針といったものです。

キャリアの核の例としてアメリカの組織心理学者、エドガー・シャイン(Edgar Schein) は、キャリア・アンカー というアイデアを提示しています。「アンカー」とは船の錨のことで、船が波に流されても最後には錨のある場所へ戻ってくるように、仕事や職業人生の基点となる拠り所という意味です。

シャインが示したキャリア・アンカーは次の8つです。
  1. 専門的・職能別能力 (Technical/Functional Competence)
  2. 全般的な管理能力 (General Managerial Competence)
  3. 自律と独立 (Autonomy and Independence)
  4. 保障と安定性 (Security and Stability)
  5. 起業家的創造性 (Entrepreneurial Creativity)
  6. 奉仕・社会貢献 (Service/Dedication to a Cause)
  7. 純粋な挑戦 (Pure Challenge)
  8. 生活スタイル (Lifestyle)

たとえば、専門的・職能別能力をキャリア・アンカーにもつ人は、自分の専門性や職務上の能力を高め、それらを活かせることが仕事における重要事項、関心事になります。また、自律と独立をキャリア・アンカーにする人は、仕事に自分らしさを発揮することを強く志向するでしょう。

キャリア・アンカーについては、シャイン教授が執筆した以下の本に詳しく解説されています。自分でキャリア・アンカーを診断できる「キャリア志向質問票」や、誌上でキャリア・カウンセリングが体験できる質問シートも掲載されています。



キャリア・アンカーの本の表紙
キャリア・アンカー
自分のほんとうの価値を発見しよう



キャリアの核はキャリア・アンカーだけに限らず、さまざまなものが考えられます。また、時間の経過と伴に変化することもあります。

こうしたキャリアの核は専門の研修やキャリアカウンセリングを受講したり、人材アセスメントのような適性検査を行うことで明らかになります。当事務所では 個人特性分析モチベーション測定 という人材の診断・分析業務を行っています。



Aキャリアの核を仕事に反映させる

自分のキャリアの核が明確になれば、次にどうすればキャリアの核を現在の仕事や役割で活かせるのかを検討します。

この際、仕事の内容や進め方を自分のやりたい向きに変えることも起りえます。それには経営者や上司・管理職、同僚といった周囲の人たちの理解と協力が不可欠です。キャリアの核は社員本人が認識するだけでなく、周りの人たちも理解していることが望まれます。

一方、直属の上司は部下のキャリアの核を意識した上で、目標を定め、仕事を割り振り、指示や支援のあり方を使い分けるというマネジメントが求められます。

ここはキャリア開発を人材育成に取り込む中核部分ですが、制度化したり、マニュアル化するといった「形式知」にすることができません。長期的な視点に立って、ノウハウや事例を交換する場を社内に整え、試行錯誤しながら地道なカイゼンを続けるしかありません。このプロセスが上司の個人レベルの実践から、会社全体での実践にまで広がり、定着すれば、人材を育成する「暗黙知」になります。

人材育成に強みを発揮する会社は、社内にこうしたの暗黙知を備えていることが多々あります。人材育成のための制度や施策が平凡でも、暗黙知による運用ノウハウが大きな役割を果たしています。



Bキャリアが選択・変更できる仕組みを用意する

会社がキャリアを選択したり変更できる仕組みを用意します。具体的には、次のようなものがあります。
  1. 専門職制度や専任職制度の充実
  2. 限定正社員制度・短時間正社員制度といった多様な正社員制度の導入
  3. 自主申告制度や社内公募制度のように社員の希望で異動が叶う仕組みの導入
  4. 留学やボランティア、介護などを理由にした長期の休暇・休職の容認
  5. 一度退職した社員の復帰を認める
  6. 開業・独立支援制度

これらはキャリア・デベロップメント・プログラム(CDP)の一環として導入している企業が増えつつあります。
キャリア開発の対策は、キャリア開発支援って何をするの? でも詳しく触れています。

【参考】事業内職業能力開発計画作成の手引き(PDF)




【ご案内】
当事務所では、会社の人材育成をサポートするため 個人特性分析モチベーション測定 という人材の診断・分析を行っています。人材育成のことでお悩みなら、ご検討ください。

E-mail: justeye367@yahoo.co.jp   電話 : 06-6761-3517








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