減産に伴う期間従業員の雇い止め
本田技研工業事件
東京地裁 平成24年2月17日判決
【事件の概要】
労働者Xは約11年に渡り本田技研工業・A製作所の期間契約社員(=有期雇用契約)だった。契約内容は1年ごとに1カ月~3カ月の有期雇用契約の締結、更新を繰り返し、期間満了となれば一旦退職するものの、再び雇用契約を締結することを繰り返していた。
平成20年9月の末には、雇用契約の更新の上限がそれまでの1年から3年に延長され、10月~11月の2カ月間の有期雇用契約を締結した。しかし、その後、リーマンショックによりホンダは減産を余儀なくされ、有期雇用の社員については全員の契約の更新を行わない、いわゆる雇い止めを実施することになった。
労働者Xも平成20年11月の末に次回の契約は1カ月とし、更新はしないとする有期雇用契約を交わし、12月18日に退職届を提出、12月31日で契約期間満了のため退職となった。その後、労働者Xは同社の行った契約の更新拒絶は違法・無効であるとし、復職と慰謝料を求め提訴した。
東京地裁は請求を棄却
東京地裁の判決
ホンダは期間契約社員の契約については1年ごとに有期雇用契約を更新することなく終了させ、一旦、雇用関係を解消した後、再び入社希望者を募集し、選考の上で採用している。このため同社と労働者Xの有期雇用契約は、実質的に期間の定めのない雇用契約とは認められない。
平成20年12月の次回の更新はしないとする不更新条項の入った1カ月の有期雇用契約は、労働者Xの自由な意思により締結されたものであり、公序良俗に違反しているとは言えない。
約11年という長期に渡る有期雇用契約が続いており、平成20年9月には更新の上限が3年間に延長されているなど、労働者Xが平成23年まで継続して勤務できるという期待を抱いたのは合理的と言える。しかし、労働者Xは平成20年12月に不更新条項の入った労働契約を締結するに際には、異議や不満を表明しておらず、雇用が継続されるという期待利益を放棄したと認められる。
労働者Xはこの判決を不服とし控訴したが、東京高裁は地裁の判決を踏襲し、平成24年9月20日に控訴は棄却。
解説と実務における注意点
本件は有期雇用契約(期間の定めのある雇用契約)を更新せずに、雇い止めをしたことを巡る争いです。まず法律上の雇い止めについて確認しておきましょう。
雇い止めとは、例えば最初に2カ月の有期雇用契約を交わし、その中で契約の更新は行うものの、契約期間は1年と定められていたとします。そして2回目の更新時期を迎えた際、「次回の更新はしない」という条項の入った契約を交わし、6カ月で契約を終了させることが雇い止めです。契約期間の1年が経過し、その後は契約しないというのは単なる契約の終了であり、雇い止めではありません。また、すでに契約を交わした2カ月間の途中で会社が契約を解除することは解雇になり、こちらも雇い止めではありません。
現在、雇い止めについては、過去の裁判例を基に法制化が図られています(労働契約法・第19条)。それによると、19条が定めるような有期の雇用契約が存在する場合(←次の次の段落で詳述)に、労働者が契約の更新の申込みをしたにも関わらず、会社がこの申込みを拒否した場合、この拒絶が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められない時は、労働者からの契約更新の申込みを承諾したものとみなされます。つまり会社は雇い止めすることができません。
会社の申込み拒否が「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められないとき」という文言は、解雇について定められた労働契約法の第16条と同じ表現になっています。つまり有期労働契約を更新しないことが法律上、解雇と同じ扱いとされることになります。これを解雇権濫用法理の類推適用と言います。
労働契約法・第19条が定める有期雇用とは2つのパターンがあります。一つは雇用契約の更新手続きが形骸化して、正社員のような期間の定めのない雇用契約とほとんど変わらない実態があること。もう一つは、労働者が雇用契約が更新されるという期待を抱くことに合理的な理由がある場合です。有期雇用契約がこれら2つのうち、いずれかに該当すれば会社が行う雇い止めは法律上は解雇と同じ扱いとなります。
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雇い止めが解雇になるかどうかがポイント
この事件では、有期の雇用契約は11年に渡っており、さらに契約期間の上限が3年に延長されたこともあり、裁判所は労働者Xが抱いた雇用契約が継続されるという期待は合理的であることを認めています。
しかし、労働者Xは会社が示した次回の更新はしないという不更新条項の入った労働契約について、異議や不満を表明しておらず、退職届も提出していることから、労働契約法・第19条が定める契約更新の申込みがあったとは認められず、契約が更新されるという期待利益を放棄したものと判断しました。
判決では労働者Xが不更新条項の入った契約の締結に異議や不満を表明し、雇用契約を締結しないまま11月末で期間満了により雇い止めとなったのであれば、先に述べた解雇濫用法理が適用されるかどうかが検討されることになるが、この事件はそのような事案ではないとしています。
有期雇用契約の雇い止めを巡る争いでは、解雇権の濫用法理が適用されるか否かが大きなポイントになります。適用が認められると、雇い止めは解雇と同じ扱いとなるため、客観的で合理的な理由と社会通念上相当であることが求められます。これは会社側にはかなり不利な状況です。
解雇権の濫用法理が適用されないようにするには、労働契約法・第19条が定める有期労働契約に該当しないようにすることが必要です。具体的には、①有期労働契約の更新手続きは厳格に行い、更新内容を労働者にしっかり説明し、契約書や文書を交付し、正社員のような期間の定めのない社員と同じような扱いにしないこと。そして②経営者や人事担当者は、有期雇用の労働者に契約は更新されるといった期待を持たれないような人事労務管理に努め、日頃の言動にも注意を払うことが求められます。別の裁判では、経営者が有期契約の労働者に対し「出来るだけ長く働いてもらいたい」と発言したことが、契約更新に対する合理的期待に繋がったと判断されたこともあります。
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