自社の賃金格差を検証する方法
人事評価や処遇に際しては、公正・公平であることが重視されるが、公平・公正の中身は時代と伴に変化していく。かつては同じ年齢・同じ勤続年数であれば、ほぼ一律に扱い、給料に差をつけないことが公正・公平であるとされた。
しかし、最近は企業が何らかのモノサシを用意し、それで測った結果が異なれば、給料に差を付けることが公正・公平であると受け止められている。この場合、気になるのは、設けた格差が適切なのかという問題だ。日本では過度な格差は組織の一体感や連帯感を喪失させる恐れがある。
年齢による格差の調べ方
企業が給与格差を設ける際の基準・モノサシとして従業員の生計維持費がある。一般的に若い社員は生活に必要な費用は少なく、年齢を重ねるごとに家族が増え、生計費は増加する。このため、企業は社員の年齢が上がるにつれ、給料が上がる賃金体系にしている。こうした年齢別に給料が決まる年功序列賃金は急速に減りつつあるが、全廃している会社は少数派で、賃金体系の一部として残されている。
この年齢間の格差が適切かどうかを検討する際に用いられるのが 標準生計費 だ。最も代表的なのは総務省統計局が公表している「家計調査」で、世帯主の1カ月の支出額が年齢階級別にわかる。この標準生計費を自社の年齢階級別の賃金と比較をすれば、年齢による賃金格差が適切かどうかを検証することができる。
資格等級による格差の調べ方
現在、最も多くの企業で採用されている職能資格制度では、社員の職務遂行能力によって資格等級が決まり、その結果、給与格差がつく仕組みになっている。この場合、人事評価によって評価が決まれば、あらかじめ作成された賃金テーブルによって、自動的に給料や昇給額が決まる仕組みになっていることが多い。
こうした場合、格差を検証するには モデル賃金 が用いられる。モデル賃金とは、いくつかの仮想の社員を設定し、入社から退職までの賃金の推移(=賃金カーブ)を描いたものだ。入社からずっと高い評価を取り続けた社員、平均的な評価が続いた社員、見劣りする評価の社員、それぞれをモデルとして、人事評価の違いによってどのように賃金格差が付くかをシュミレーションする。モデルごとの賃金カーブを比較すれば、格差のつき具合を検証することができる。
他社と比較する場合は、経団連の「定期賃金調査」、中央労働委員会の「賃金事情等総合調査」、東京都産業労働局の「中小企業の賃金事情」などが、モデル賃金を公表しているので、これらを使うとよいだろう。
すべての会社で使える方法
しかし、職能資格制度を採用していない会社や、最近増えつつある賃金テーブルを廃止してしまった企業では、モデル賃金を使って格差を検証する手法は使えない。そうした場合は、厚生労働省が公表している「賃金構造基本統計調査」を使って、賃金格差を調べることができる。
この調査では業種別・規模別(従業員数別)に賃金の詳細なデータが公表されており、その中に「分位数」と「分散係数」という項目がある(「年齢階級別労働者数及び所定内給与額の分布特性値」というエクセルにより作成された統計表)
公表されている分位数の一つ、4分位数は、まず自社の従業員を給料の高低に従って一列に並べ、これを同じ人数ごとに4つのグループに分ける。仮に社員数が100人だと、給料の低い順に25名ずつ4つのグループ、A・B・C・Dに分ける。こうしてグループ分けしたAとBの境界、25%に当たる数値を第1分位数とよび、CとDの境目、75%に当たる数値のことを第3分位数と言う。ちょうど中間の数字、BとCの境目は「中位数」(第2分位数)になる。第1分位数と第3分位数の間には、全社員の50%が納まることになる。この第1分位数と第3分位数の差が大きいことは、社員間の給与格差が大きいことになる。
「分散係数」は、第1分位数と第3分位数の差の大きさと中位数の数値から、データのバラツキ(=分散)具合を数値化したもので、数値が大きくなるほど給料格差が大きいことになる。分散係数は、(第3分位数-第1分位数)÷(中位数×2)という式で計算される。
もう一つ公表されている「10分位数」も考え方は同じで、こちらは全社員を給料の高低の順に並べ、10のグループに分けたもので、第1・10分位数と第9・10分位数の給料の間に、全社員の8割が収まることになる。
エクセルを使えば簡単
自社の全社員の給料から分位数を求めるには、エクセルで用意されている関数を用いると便利だ。4分位数は「QUARTILE」、10分位数は「PERCENTILE」、中位数は「MEDIAN」という関数で求められる。分散係数は単純な式なので手作業で計算式を設定する。
こうして求めた自社の給与の分位数と分散係数を、賃金構造基本統計調査の値と比較する。自社の分位数と分散係数の方が大きければ、同業・同規模の他社平均よりも賃金格差が大きいことになり、逆に小さければ、格差は小さいことになる。一例を挙げると、平成26年調査の情報通信産業、社員数100人以上・1000人未満の場合は、第1分位数が249,000円、第3分位数は413,500円、分散係数は0.26となっている。
なお、この方法で格差を検証する際は、自社の人員構成に注意する必要がある。若年層や中高齢層といった年齢層に偏りがあると格差は小さくなる。そうした場合、分位数や分散係数は年齢階層別にも調査されているので、特定の年齢階層に絞って比較をすればよい。
2015/7/21
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