法律が求める柔軟性のある働き方
電機メーカー各社が従来型の携帯電話の生産を中止する。日本の携帯電話は独自の仕様で発展を遂げてきたことからガラパゴス諸島の生物になぞらえガラパゴス携帯(ガラケー)と呼ばれてきたが、スマホの普及により淘汰された格好だ。
ガラパゴス化しているのは携帯電話だけではない。日本の人事管理もガラパゴス状態にある。日本企業は新卒学生を大量に採用し、定年までの雇用を保障する見返りに会社の都合に合わせた働き方を強いてきた面がある。それは、多忙な際は長時間労働をさせ、人事異動で勤務地を変更し、配置転換でどんな仕事もさせるという手法であり、世界的に見ても特異な人事管理と言える。
だが、こうしたガラパゴス人事も限界を迎えつつある。人口の減少により、会社の都合に合わせて融通無碍な働き方ができる若手社員の絶対数が減ってきている。そして技術革新のスピードが早くなり、専門性の高いスキルが求められ、社内の人材育成が追い付かなくなってきた。さらに会社の事情に応じて無条件に働く前提となる終身雇用制度が崩壊し、65歳定年や70歳までの継続雇用が現実味を増すにつれ、就労や転職、キャリアに対する社員の意識の変化も見逃せない。
こうした環境変化に対応するには、より多くの人が労働市場に参入出来て、様々な労働条件で就労を続けられ、いつでも・どこでも・誰でも自らの持ち味を活かせる、そんな場の整備が必要だ。会社側から見れば、多くの優れた人材を確保し、彼らがライフステージの変化に応じて柔軟に働けるようにして、意欲や創造性を引き出すような人事管理が求められる。昨今、話題になるワークライフバランスもその延長線上にある。
法律による定め
会社に柔軟で働きやすい人事管理を求める労働法もある。労働基準法は1歳未満の子供を育てる女性社員が会社に請求すれば、1日に2回、それぞれ30分の育児時間が与えられることを定めている。育児時間は始業前・終業前にも取得できるので、これにより時差出勤や早退勤務が可能になる。なお、この「1歳未満の子供」というのは女性社員が自分で出産した子供に限定されない。そのため祖母が孫を育てるような場合にも適用される。
育児介護休業法では、1歳未満の子供がいる社員は1年間の育児休業を取得することができ、要介護状態にある対象家族を介護する社員は通算93日間の介護休業ができる。要介護状態とは2週間以上に渡って常時介護を要する状態のことで、対象家族とは配偶者、父母、子、配偶者の父母、同居し扶養している祖父母・兄弟姉妹・孫のことを指す。この介護休業は平成29年からは2回または3回に分割して取得できるようになる。
そして、会社は3歳未満の子供がいて育児休業中でない社員や、要介護状態にある対象家族を介護する社員を対象に短時間勤務制度を導入することが義務になっている。また3歳未満の子供がいる社員が希望すれば所定労働時間を超えた残業をさせてはならないし、小学校に入学する前の子供を持つ社員や対象家族を介護する社員が申し出れば、時間外労働と深夜労働は1カ月・24時間、1年・150時間までに制限される。
小学校入学前の子供または対象家族1人につき年5日まで(2人以上は年10日まで)の看護休暇・介護休暇の付与も義務化されている。看護休暇は子供の病気やケガ、健康診断、予防接種といった理由で取得でき、介護休暇は介護に加え、病院への付き添いや介護サービスの手続き代行といった理由で取得できる。看護休暇・介護休暇は1日単位で取得できるが、平成29年からは半日単位の取得も可能になる。なお、育児介護休業法は短縮された労働時間や休暇を有給にすることまでは求めていない。このため月給制の社員を無給にするなら賃金控除を行うことになる。
労働契約法には、同じ会社で有期の労働契約を反復更新し5年が経過した場合、有期雇用の社員からの申し出があれば、有期の労働契約は無期雇用に転換されるという定めがある(労働契約法・第18条)。これは必ずしも正社員に登用することではなく、原則は従前の有期雇用契約の労働条件のまま、雇用期間だけが有期から無期へ転換される。
そうなると労働時間が短い「短時間正社員」や人事異動がない「地域限定正社員」という新しいタイプの正社員が登場することになる。会社として短時間正社員という存在を認めるのであれば、育児や介護により短縮勤務をしている社員を短時間正社員として位置づけ、ライフステージの変化に応じてフルタイム勤務の正社員との間を行き来きできる人事制度も検討に値する。
そしてパートタイム労働法では、会社に対して短時間労働者を正社員へ転換する措置を講じることを義務にしている。この措置とは次の3つのいずれかとされている。①正社員を募集する際はその情報を短時間労働者にも周知する ②社内公募により人事異動を行う場合は短時間労働者にも応募機会を与える ③正社員への登用試験などの転換制度を導入する。
法律で義務化されていない仕組みとしては、①フレックスタイム制 ②ボランティアや留学などの理由による長期の休職(サバティカル休暇)とその後の復職保障 ③職務や職種を限定した正社員制度 ④在宅勤務制度 ⑤有給休暇の積み立て制度 ⑥自己啓発支援を目的にした社内出向や社内インターン ⑦自己都合で退職した社員の復帰容認、などがある。
いつでも、どこでも、誰でも、自分に合った働き方
仕組み以外にも必要なことがある
柔軟で働きやすい仕組みも制度化するだけでは機能しない。経営陣や管理職は柔軟で働きやすい職場環境を整えることの重要性を理解し、会社への貢献は労働時間の長さという量ではなく、質で決まるという共通の認識を持ち、その上で実際の働き方を変えなければ、周囲への気兼ねから制度が利用しづらいものになる。また制度を利用する社員のしわ寄せが他の一部の人に集中し、不公平感が高まることもある。
働き方を変えるためのきっかけを作るのは仕事量の削減だ。まずは個人がこなしている毎月の仕事をリストアップし、優先順位をつける。そして優先度が低い仕事は①止める ②下に降ろす ③外に出す ④一つにする。
これらを半ば強制的に進めるため、社内で会議を行うことを禁止して、近くの会議室を借りることにした会社がある。会議室は時間の制限があるため効率が上がる上、予約をしたり外出するのが面倒になり不要不急な会議がなくなった。
また個人専用のデスクをなくし資料を保管できないようにした会社もある。現在のように経営環境の変化が激しいと、過去の資料は役に立たないことに加え、古い資料があるから不要な仕事が増える。仕事にも「断捨離」が必要だ。
2016/4/25
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