改正後の育児介護休業法の全体像
仕事と家庭の両立を支援するため、平成29年の1月1日と10月1日の2度に渡って 育児介護休業法 が改正され、施行されている。育児介護休業法は頻繁に改正され、その都度拡充されてきた結果、企業の負担は高まっている。中小企業では該当者から申し出があって初めて規定に目を通し、その負担の重さに驚かされることになりかねない。今回は改正点を踏まえながら育児介護休業法の概要を見ておこう。
育児介護休業法の大枠は、従業員が会社を休むことができる規定が2つ、そして労働時間に関する規定が4つある。会社を休むことを認める規定は、①休業と②休暇で、労働時間に関しては、①所定外労働時間の制限、②時間外労働の制限、③深夜労働の制限、④短縮勤務措置の4つがある。
概要をまとめた一覧表はこちら(PDF)
育児と介護による休業と休暇
育児休業は原則として1歳に満たない子どもを養育するための休業で、介護休業は常時介護を必要とする要介護状態にある対象家族を介護するための休業だ。この対象家族とは、配偶者、父母、子、祖父母、兄弟姉妹、孫、配偶者の父母で、改正により祖父母、兄弟姉妹、孫の同居かつ扶養の要件はなくなった。
育児休業・介護休業は正社員であれば無条件で取得することができる。有期雇用契約の労働者は①1年以上継続雇用されており、なおかつ、育児休業の場合は②子どもが1歳6カ月になるまでの間に雇用契約が終了し更新されないことが明らかでない場合、介護休業の場合は介護休業を取得してから93日が経過して介護休業が終了した後の6カ月間に、雇用契約が終了し更新しないことが明らかでない場合に取得することができる。育児休業の②は今回、文言が改正され拡充が図られている。
会社が育児介護休業の取得を制限するためには労使協定を締結する必要がある。協定に盛り込める内容も定められており、①継続雇用された期間が1年未満、②1週間の所定労働日数が2日以下とされ、労使協定があれば会社は①または②に該当する労働者の育児介護休業の取得を拒むことができる。逆に言えば、労使協定を締結していないと、採用後1年未満の労働者からの育児や介護のための休業の申し出を拒むことはできない。
介護休業の期間については今回改正され、93日間の休業期間を最大3回に分割して取得することができるようになった。育児介護休業期間中、会社はノーワーク・ノーペイの原則に従い、賃金を支払う必要はないが、雇用保険から育児休業給付金・介護休業給付金が支給される。ただし、雇用保険の支給要件を満たす必要がある。例えば先の例のように、採用後間もない労働者が育児や介護の休業を取得した場合、雇用保険の支給要件を満たさず給付金が支給されないこともある。
休暇は必要に応じて単発で会社を休むことができる規定だ。子の看護休暇では、取得できるのは小学校入学前の子どもの世話をする労働者とされ、介護休暇は対象家族を介護する労働者が取得できる。これらの休暇の取得については正社員と非正規雇用の社員の扱いに差はなく、誰でも無条件で取得できる。労使協定を締結すれば、①継続雇用された期間が6カ月未満の労働者や、②1週間の所定労働日数が2日以下の労働者の取得を制限(=排除)できる。
休暇日数は1年度に5日とされ、従来は1日単位での取得とされていたが、改正により半日(=所定労働時間の半分)単位で取得することも出来るようになった。ただし1日の所定労働時間が4時間以下の労働者は、半日単位での取得はできない。
この休暇は労働者1人について5日の付与とされ、子どもや対象家族1人ごとに5日ではない。そのため子どもや対象家族1人につき、夫婦がそれぞれ5日の休暇を取得することができる。
労働時間を制限する規定
次に労働時間に関する内容を見ておこう。労働時間については正社員も有期雇用の労働者も扱いは同じだ。まず所定外労働時間の制限では、労働者が請求すれば所定労働時間(=会社が定める労働時間)を超えて働くことが制限(=免除)される。育児の場合に請求できるのは子どもが3歳未満の労働者で、今回の改正により対象家族を介護する場合も請求ができるようになった。
新しく設けられた介護の場合、対象家族の介護が必要なくなるまで所定外労働時間の制限を請求できるのが特徴だ。育児と違って介護は終わりがわからないため、介護の期間が長期に及べば、請求した労働者は事実上、「残業免除正社員」といった限定正社員のような位置づけになる。
所定労働時間制限の請求は、以下に述べる勤務時間の短縮と重複して請求することができる。このため1日の労働時間を6時間に短縮した上で、所定外労働時間の制限により6時間を超えて働くことがないといった勤務が可能になる。ただし、勤務時間の短縮措置の利用には育児も介護も期間の制限がある。
時間外労働の制限と深夜労働の制限については、今回の改正はない。時間外労働の制限とは、労働者が請求した場合、時間外労働(=法定の労働時間を超える労働)が1カ月24時間まで、1年で150時間までに制限される。深夜労働についても労働者が請求した場合、午後10時~午前5時の時間帯の労働が制限(=免除)される。
請求できるのは、育児の場合は子どもが小学校へ入学するまでの労働者だが、介護の場合は対象家族を介護する労働者とされている。そのため介護が長引けば、その間ずっと時間外労働の制限や深夜労働の制限が続くことになる。
勤務時間の短縮やハラスメント防止措置も必要
勤務時間の短縮措置は、労働時間を短くすることで働き続けることを可能にしようとするもので、会社は労働者が請求した場合に利用できる仕組みを用意しなければならない。育児の場合は、所定労働時間を1日・6時間とする勤務時間短縮措置を必ず取り入れなければならないとされている。利用対象になるのは3歳未満の子どもを養育する労働者で、1日の所定労働時間が6時間以下の労働者や育児休業中の社員は利用することができない。
労使協定を締結すれば、①継続雇用が1年未満の労働者や、②1週間の所定労働日数が2日以下の労働者、③短縮勤務が困難な労働者の利用を制限(=排除)することができる。ただし③の短縮勤務が困難とされる労働者の利用を制限するのであれば、代替措置を用意しなければならない。代替措置としては、(a)フレックスタイム制度の利用、(b)始業終業時刻の繰り上げ・繰下げ(時差出勤)の適用、(c)保育施設の設置やベビーシッター費用の負担がある。
介護の勤務時間の短縮措置には改正があり、介護休業とは別に利用開始から3年以上の間に2回以上の利用が可能なものにしなければならない。介護の場合の勤務時間短縮措置は、①短時間勤務制度、②フレックスタイム制度、③始業終業時刻の繰り上げ・繰下げ(時差出勤)、④介護サービス費用の助成、これらのいずれかにしなければならない。①の短時間勤務制度とは、(a)1日の所定労働時間の短縮、(b)1週または1月の所定労働時間の短縮、(c)1週または1月の所定労働日数の短縮(隔日勤務や特定の曜日だけの勤務)、(d)労働者が勤務しない時間や日を請求できる制度、とされている。育児の場合と異なり1日・6時間勤務は必須ではない。
そして今回の改正では、会社に対し上記に記したような育児や介護の制度や措置の申出・利用について、上司や同僚からのハラスメントを防止する措置を講じることが義務化された。具体的には、ハラスメントに対する会社の方針を周知させ従業員への啓発を行うことや、相談窓口の設置、相談担当者が適切に対応できる体制を整えること、ハラスメントへの迅速かつ適切な対応を行うこと、ハラスメントの原因を究明し解消を図ることなどが盛り込まれた。
育児や介護を理由として退職を余儀なくされた労働者から法的な訴えがあった場合、会社は不法行為や債務不履行を問われ、損害賠償責任を負う危険が高まったことになる。
2016/11/27
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