人事評価の新潮流~パフォーマンス・マネジメントについて
最近、アメリカ企業の間では人事評価を廃止する動きが広がっています。日本でも馴染みのある会社としてはGE、IBM、マイクロソフト、アマゾン、アドビシステムズ、デル、ネットフリックス、GAP、フェデックス、モルガンスタンレーといった会社が従来の人事評価を廃止しています。
ただし廃止されているのは目標管理制度も含めた「従来の人事評価」であって、人事評価そのものは行われています。「従来の人事評価」は結果に基づく査定だけが行われ、人材をどのように使って業績向上に繋げるかという視点が欠落しているのではないかという反省に立ち、従来型の人事評価に代わり
パフォーマンス・マネジメント が行われています。 パフォーマンス・マネジメントとは、一体どのようなものなのでしょう。
パフォーマンス・マネジメントの特徴とは
パフォーマンス・マネジメントは評価を賃金や賞与、昇進・昇格といった処遇に反映させるのではなく、社員の行動変容を促し、意欲の向上や能力開発を図ることを狙いにしています。評価の結果をフィードバックすることで上司と部下の間でのコミュニケーションを促し、人材育成を進めることにより個々人のパフォーマンス向上を会社組織のパフォーマンス向上に繋げようとしています。なお「パフォーマンス」という言葉には、業績や成果だけでなく、職務上の行動も含まれます。パフォーマンス・マネジメントには結果だけでなく、プロセスも評価の対象に含まれます。
パフォーマンス・マネジメントと従来の人事評価・目標管理制度の運用における違いは、まず評価期間が大幅に短くなっている点です。従来のような半期、1年という長期での評価ではなく、月単位や週単位、あるいは仕事の一区切りごとに評価が行われます。そして、その都度フィードバックが行われます。
評価では相対評価は行われず、絶対評価だけが行われます。相対評価によって社員を序列化し、一定の分布割合に当てはめて評価が調整されるのではなく、上司による絶対評価がそのまま最終評価になります。現場のマネージャーは自らの評価を基に、与えられた予算をメンバーごとに割り振り、昇進や昇格、賞与が決まります。
目標管理制度では、評価期間が短縮化されることも相まって、目標は上司と部下の話し合いで決められ、状況に応じて柔軟に変更され、部門や組織の目標だけでなく、個人的な成長目標も設定されます。そして目標管理制度の対象になるのは一部の管理職階層だけでなく、従業員全員になるのも特徴と言えます。目標管理制度は定型的なシステム色の濃い制度から、オーダーメイド的で個別色の強い仕組みに変わっています。
パフォーマンス・マネジメントと従来型の人事評価の質的な違いは、従来型の人事評価が主に過去についてどうだったかに重きを置き、評価結果はもっぱら昇進・昇格や賞与・一時金の査定に用いられているのに対し、パフォーマンス・マネジメントは、過去を基にして、将来に向けて企業業績を確かなものにするプロセスである点です。パフォーマンス・マネジメントは人事評価を包摂し、経営に直接影響を与えるマメンジメント・ツールになっています。
アメリカ企業でパフォーマンス・マネジメントが広がりつつある背景には、従来の人事評価・目標管理が費やすコストの割にどれだけ経営にプラスに作用しているのかが不透明という事情が挙げられます。さらに人事評価が抱える古くて新しい問題である評価者のバイアス(偏り)や、相対評価による従業員のモチベーションの低下もあります。 そしてビジネスを進める上でスピードの早さと創造性が求められる点も、年単位で事前計画に基づき評価を行うという目標管理とミスマッチを起こしています。
また仕事を進める上で、他部署のメンバーや社外の関係者とのコラボレーションによるチームやプロジェクト単位での動きが台頭している点も挙げられます。目標は個人に帰結するよりもチームやプロジェクト全体で共有され、仕事の進め方は臨機応変に見直されます。こうした現場での仕事の進め方が、固定的な組織単位で計画と管理を重んじる従来型の人事評価制度とそぐわなくなっているのです。
パフォーマンス・マネジメントを始めて良かったよ
「1on1」という上司と部下の話し合い
日本では「パフォーマンス・マネジメント」はまだあまり知られていませんが、中核箇所である上司と部下の1対1の話し合いを 1on1ミーティング(ワン・オン・ワン、以下では単に1on1とします)と呼んで、導入する会社が出始めています。「1on1」での話し合いは、仕事を進める上での打ち合わせや報告、指示ではなく、人事評価や目標管理における期中・期末の面談でもありません。
「1on1」は部下のための時間であり、対話によって内面からの気づきを促し、成長を図るものです。特徴としては、月に数回という多頻度で行われ、上司は部下の話を聞いて判断をしたり、助言をするのではなく、傾聴して判断を引き出すようにします。
「1on1」で話されるテーマは信頼関係を醸成するものとして、①プライベートも含めた相互理解 ②心身の健康状態 ③モチベーションアップなどがあり、成長を支援するものとして、④業務・組織の課題の改善 ⑤目標の設定、評価 ⑥能力開発・キャリア支援 ⑦会社方針や部門戦略の伝達、といったものがあります。
この「1on1」を全社で実践して成果を挙げているのがヤフーです。同社では2012年から「1on1」を本格的に開始しており、1週間に1回のペースで、約30分を目途に「1on1」が行われています。ヤフーは「1on1」の目的を経験学習の促進と社員の才能と情熱を解き放つこと、としています。
ヤフーで行われている「1on1」はどのようなものなのか、ちょっと覗いてみることにしましょう。
「1on1」で人材を育成するヤフー
ヤフーの「1on1」は①信頼関係の構築 ②学びの深化 ③次の行動の決定という3つのプロセスから成り立っています。
まず①の信頼関係の構築では、テクニックとして「アクティブ・リスニング」(傾聴)と「レコグニッション」(承認)が用いられます。「アクティブ・リスニング」とは、うなずく、相槌を打つ、部下の発したキーワードを繰り返すなどにより相手の話を受け止めることで、「レコグニッション」は部下の発言に共感や肯定的な配慮を示すこととされています。
「1on1」はしばしば「今日は何を話そうか」という上司の問いかけから始まります。話す内容やテーマは部下が選び、仕事や目標以外の事でも構いません。部下にすれば何でも自由に話せて、上司が真摯に耳を傾けてくれることが信頼関係の醸成に繋がります。
次の②のプロセスの「学びの深化」では「コーチング」「ティーチング」「フィードバック」が行われます。コーチングについてヤフーでは、「部下が経験から学び、次の行動を促すための質問を中心としたコミュニケーション手法」としています。
「コーチング」で用いられる質問としては「上手くいった要因は何だと思う?」「成功した時との違いは何だろう?」「根本的な問題は何?」「ここから得られたあなたにとっての教訓とは?」「今回の出来事から何を学んだ?」といったものがあります。上司は部下の話に「なるほど」「うん、それで」「もう少し詳しく話して」といったニュートラルな対応をして、さらに話を進め、部下が自分の話している内容について考えを深める、あるいは別の角度から見つめられるようにします。
上司からの問いに答えながら、部下は自分の経験を振り返り、考えを深めていきます。すぐに返事がなくても、じっと待つことが大切で、上司が答えや自分の意見を表明してしまうと部下の成長の機会を奪い、自ら考え改善し行動することを阻害してしまいます。この「学びの深化」のプロセスは日頃は明確な方針を示し、適格な指示を出すことが求められている上司にとってかなりの難所と言えるでしょう。部下の話の内容によっては、対処方法を教える「ティーチング」が望ましい場合もあります。「コーチング」と「ティーチング」の使い分けは場数を踏むことで見極める目を養うしか手がありません。
部下との話し合いでは「フィードバック」も行われます。ヤフーの「1on1」でのフィードバックとは、①上司の期待水準と部下の成果との差を示し、②一緒に働く者から見て部下がどのように見えているかを返すものとされています。部下はフィードバックによって気づきが得られたり、自分の信念や見方・考え方のクセを知ることができます。
一通りの答えが出ると、最後の③の「次の行動の決定」に進みます。ここでは「では、どうする?」「どうやって進める?」「いつやる?」「この学びをどこで活かす?」「手伝えることはある?」といった質問を投げかけ、具体的な行動へ移るように仕向けていきます。時には「今決めなくてもいいけど」と告げ、返事を次の話し合いまでに保留しても構いません。先送りにしても翌週には再び話すことになります。
最後の5分間で、部下は今日の話し合いで感じたことは何か、得たものは何か、反省すべき点は何か、次の1週間の課題などをまとめるようにします。
これまで日本の会社の人材育成と言えばOJTやOFF-JTに代表される全員一律の教育や研修でしたが、これらはいずれも十分な成果が期待できなくなりつつあります。「1on1」は新しい人材育成の手法として注目を集めそうです。
2018/12/21
「1on1」について詳しく知りたい方にお勧めの本
ヤフーの1on1 部下を成長させるコミュニケーションの技法(立ち読みできます)
1on1マネジメント 個人のパフォーマンスを最大限に引き出すために
シリコンバレー式 最強の育て方 人材マネジメントの新しい常識 1on1ミーティング
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