人事労務管理と人材マネジメントに関する情報発信

限定正社員との付き合い方



日本企業の雇用管理の基本的な枠組みとされてきた、長期雇用の正社員と短期雇用のパート・アルバイトという組み合わせが見直されようとしています。正社員は雇用は保障されていますが、その見返りに「いつでも」「どこでも」「何でも」といった融通無碍な働き方が求められます。会社の事情や状況に応じて、残業や休日出勤があり、人事異動や配置転換によって職場や仕事が変わります。一方、短期雇用の従業員は、雇用は不安的ですが、自分のライフスタイルに合った働き方ができる、経験やスキルを活かした仕事が続けられるというメリットがあります。

最近、この組み合わせに 限定正社員 という雇用管理区分が登場し始め、今後存在感を増していくことが予想されます。限定正社員とは、正社員と同じ「期間の定めがない」雇用契約(無期雇用契約)でありながら、労働時間や労働日数が短い、あるいは残業はしない、勤務地や携わる職務が変わらない、といった特別の契約で働く社員のことで、正社員に比べ会社の人事権の行使が制限されます。

限定正社員が存在感を増すのはいくつかの理由があります。一つは人口減少により正社員のように会社の都合に応じて働ける人が少なくなることです。もう一つは人生100年時代と言われるように、職業人生が長期化することです。生涯1社で働き続けることが現実的ではなくなるため、会社の意のままに働かざるを得ない正社員よりも、自分らしい働き方が選択できる、やりがいのある仕事ができる、仕事と生活の両方の充実が叶う限定正社員を希望する人が増えてきます。すでにその兆候は限定正社員求人への応募者数の増加に見て取れます。


法律により誕生する限定正社員


こうした理由に加え、法律による後押しもあります。労働契約法により、有期雇用の従業員は雇用契約の更新を繰り返し5年が経過すると、期間の定めのない無期雇用契約への転換を申し出る権利を得ます。パートやアルバイトといった非正規雇用の従業員は労働時間が短い、あるいは住まいの近くの職場からの異動がないという労働条件のまま、有期の雇用契約から契約の更新がない無期雇用に転換され、限定正社員になります。同様に契約社員は現在の仕事や職務から異動がない限定正社員になります。

厚生労働省の無期転換ルールに関するサイトはこちら


また労働者派遣法では、同一の組織単位(例えば課)へ1年以上に渡り派遣されることが見込まれる 特定有期雇用派遣労働者 については、派遣元において 雇用安定措置 が求められます。この措置には①派遣元が派遣先へ無期雇用での採用を依頼する、あるいは②派遣元で無期雇用をする、③新たな派遣先を紹介する、などが義務または努力義務になっています。今後、有期雇用契約による派遣という働き方は、臨時的な場合に限られてきます。

そして育児介護休業法も限定正社員を生み出すことに繋がります。同法では3歳に満たない子供がいる、あるいは要介護状態の対象家族がいる社員に向けに、短時間勤務制度 を設けることを会社に義務づけています。これにより「短時間正社員」が誕生することになります。他にも「所定外労働時間の制限」も義務化されているため、「残業免除」という限定正社員が生まれる可能性もあります。




働く時間は短くても正社員です



対応を迫られる人事労務管理


限定正社員が増えてくると、会社側も新たな対応を迫られます。これまで企業は、人材についてはどちらかと言えば頭数の確保が最優先で、その後は状況に応じて労働時間(残業)や配置を調整し、やりくりしてきました。しかし、限定正社員が増えるとそうした手法は通用しなくなります。

限定正社員の存在を前提にした人事管理のポイントは、自社における限定正社員の位置づけを明確にすることです。仮に限定正社員の存在を極力抑制する方針であれば、無期転換後の社員については正社員の就業規則を適用するようにします。こうすれば有期契約時の労働条件のまま、雇用期間だけが無期になる短時間正社員や勤務地限定正社員の登場を抑えることができます。そして後述する正社員から限定正社員への転換は認めず、社員募集時にも限定正社員での応募は控えるようにします。

逆に限定正社員の活用や戦力化を積極的に推進するのであれば、有期の雇用契約が5年に満たない場合でも限定正社員への登用を図る、正社員から限定正社員への転換を容認する、限定正社員での募集を行うことにします。

そして処遇を巡って有期雇用契約の社員、限定正社員、正社員の3者間で、新しく法制化された 同一労働・同一賃金 に抵触することなく、不公平感も生じないようにします。「同一労働・同一賃金」に関しては、従来の「パートタイム労働法」がフルタイムで働く有期雇用の労働者も対象にするように改正され、名称も 短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律パートタイム・有期雇用労働法)に改められました。施行日は、大企業は2020年(令和2年)4月から、中小企業は2021年(令和3年)4月からになります。

この「パートタイム・有期雇用労働法」では、短時間および有期雇用契約の労働者と正社員との間で基本給、賞与、その他の待遇について不合理と認められる相違を設けてはならないとされています。その他の待遇には昇給・手当・退職金といった金銭面だけでなく、昇進・昇格(キャリアパス)、教育訓練、福利厚生なども含まれます。

正社員と同じ「均等待遇」にせよと言う訳ではなく、仕事の内容や責任の程度、人事異動の有無、その他の事情を踏まえ、待遇の性質及び目的に照らしてた上での不合理な相違が禁止されます。






多様な正社員に対応する賃金制度


パートタイム・有期雇用労働法の改正を踏まえると、賃金について最もシンプルなのは、限定正社員と正社員は同じ賃金テーブルを用い、働き方の違いは手当で調整するという方法です。

正社員にはいつでも・何でも・どこでも、といった働き方に対する見返り・代償として「正社員手当」を創設し、限定正社員には限定の要件(職務・地域)に見合う手当を用意します。短時間正社員については労働時間に応じて賃金を減らします。「同一労働・同一価値」の法制化により、従来からの各種の手当の見直しが迫られます。これを機に手当を一から見直すとよいでしょう。

また正社員と職務限定正社員で基本給の決め方に違いを設けるというやり方もあります。正社員の基本給は社員ひとり一人の能力やスキル、経験を評価して決まる「職能給」にして、限定正社員の基本給は仕事や職責によって決まるという「職務給」や「役割給」とする方法です。

職能給・職務給・役割給の違いはこちら


限定正社員を積極的に活用するのであれば、転換制度も充実を図るようにします。転換には次の3つのパターンがあります。

  1. 有期の雇用契約社員から限定正社員への転換
  2. 限定正社員から正社員への転換
  3. 正社員から限定正社員への転換



有期の雇用契約社員から限定正社員への転換では、労働契約法によって無期転換される権利が付与される5年より前でも限定正社員への登用を可能にします。そして限定正社員から正社員へ転換できる仕組みを整えます。限定正社員に対して経営の中枢やマネジメント職へのキャリアパスを示し、より大きな役割に挑戦することで自らの成長を図る意義を説明するとよいでしょう。

一方、正社員から限定正社員への転換も可能にします。最近はこの転換に対する潜在的なニーズが高まりつつあります。家庭の事情により地元で勤務し続けたい、資格取得を目指したり、学び直しのため勤務時間や勤務日数を短縮したい、裁量労働制で働いている現在の職務から異動せず、このまま仕事を続けたい、といった理由で正社員から限定正社員への転換を認めるようにします。

転換制度の導入で検討すべき項目としては、以下のようなものがあります。

  1. 転換対象者の範囲や資格
  2. 転換できる時期の指定(例えば在籍〇年以上)
  3. 転換回数の制限
  4. 転換の目的についての条件を設けるか否か
  5. 転換の申し出に対する審査の有無
  6. 一度転換した後、再度の転換までの期間をどうするか



2019/6/27






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