働き方改革により労働生産性を高める方法
新型コロナウイルスの影響により、テレワークが広まり、残業や会議が減るなど、見た目の働き方は変わったものの、働き方の本質を改革するまでには至っていないというのが多くの会社の現状だろう。そうなる原因の一つはテレワークや働き方改革が経営上の必要性から生じたのではなく、社会的な要請や法律による規制で始まったという経緯のためだ。経営者側の意識にも「やむを得ず」の感があるのが否めない。
だが、ここは災い転じて福となすのが賢明だ。逆境を契機に会社の競争力強化に繋げる方策が望まれる。テレワークや働き方改革により得られる直接的な効果は労働生産性の向上にある。しかし、労働生産性は設備や機械の生産性の指標である生産高や稼働率のようにリアルタイムで測ることができないため、縁遠い存在になりがちだ。そのため社員教育で労働生産性とは何なのか、生産性と経営との関係を理解させる必要がある。
その上で経営陣や部門長は、なぜ今、生産性の向上が必要なのか、事業計画や経営計画に生産性の向上がどのように関係してくるのか、これらを社員や部下に説明し、理解を得るようにしないと生産性は向上しない。合わせて、労働生産性の向上によって成し遂げる自社の将来像を示す必要がある。
経営課題として共有する
また生産性が向上すれば社員もメリットが享受できる仕組みも検討するのも良いだろう。例えば計測機器メーカー大手の堀場製作所では、かつて社員の給与総額は付加価値総額の60%以上と決めていた。つまり会社が稼いだ付加価値(ざっくり言えば粗利益)の6割が社員に還元される(=労働分配率が60%)
このルールであれば、社員にすると人を増やさず生産性を向上させれば自分の年収が増える勘定になる。逆に多忙や人手不足を理由に人を増やすと、自分の取り分が減ってしまう。そのため自然に生産性を高めることに意識が向かう。このような試みは「働き方改革」による生産性向上を社員が「自分事」として捉える仕組みと言えるだろう。
「働き方改革」により労働生産性を高める目的を社員に理解させ、経営課題として経営陣と共有する試みも望まれる。経営者や部門長は、生産性向上は何のために行うのか、そして誰のためのものなのかを社員や部下に説明できるようにする。
生産性の向上は何のために行うのかと言えば、一つは労働条件や就業環境の改善により人材の確保と定着を図るためだ。少子化により正社員候補者は年々減少するのが確実なため、人材の確保と採用後の定着は大きな経営課題と言える。また融通無碍に働ける正社員と違い、女性や高齢者、外国人労働者といった職務や時間、地域が限定される労働者を戦力化するには、残業や休日出勤を強いることなく、仕事と生活の両立を図るワークライフバランスの実現が欠かせない。
そして、企業は生産性の向上により新しい事業領域に経営資源を投じることができる。現在の仕事に投入される時間や社員数を減らすことにより、新しい商品・製品・サービスの研究開発や新規顧客の開拓、新しい販路の拡大に人員を回すことができ、将来の収益のための投資ができる。毎年、同じ仕事をしているだけという会社には将来はない。
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現場で労働生産性を高める方法
現場で労働生産性を向上させるコツは取り組むべき優先課題を決めることだ。数ある課題を同時並行で取り組むのではなく、優先順位の高い課題から着手する方が効果は高く、効率がよい。「生産性向上のための改善課題」(PDF)を参考に、自社が出来ていない課題をリストアップし、優先順位を決めると良いだろう。
現場での仕事についてのヒントを挙げると、まず人に仕事を付けず、仕事に人を付けるようにする。日本の会社では人に仕事を割り振るのが慣習になっている。Aさんにはこれをやってもらい、Bさんはあれを頼みますといった具合だ。その結果、人に仕事が張り付き、属人化してしまう。このため、「それはAさんでないとわかりません」「あれはBさんしかできません」といった事態になりがちだ。
こうなるとAさんやBさんは自分で生産性を高めようとしない。日本の会社は個人ごとの仕事の区分けが曖昧なため、効率的に仕事をこなして時間が余れば、別の仕事が割り当てられる。「Aくん、少し時間があるようだから、これも頼むよ」といった具合だ。そのため、大半の社員は今の仕事を今のやり方で続けるのが合理的な働き方になる。
これを防ぎ、仕事に人を付けるには、定期的に担当替えや配置替えを行って、属人化している仕事を切り出して、見える化(可視化)する。こうすることで一つの仕事をいろいろな人が担うことになるため、ムダ・ムリ・ムラがなくなり、標準化や平準化が進む。場合によっては切り出された仕事そのものを廃止したり、まとめる、あるいは外注化することもできる。引継ぎが頻繁にあれば業務のマニュアル化も進む。仕事が属人化していると、自分ができて、今後もすっと自分が担当する仕事のマニュアルを作る人はいないから、いつまで経ってもマニュアルが作られることはない。
もう一つの方法は、人に時間を割り当てず、時間に仕事を割り振るやり方に改める。日本の会社の特にホワイトカラーの仕事では、最初にXという仕事をやって、それが終わればYという仕事をするといった取り組みをしているケースが多い。このように人に時間を割り振るやり方では、先に取りかかった仕事が遅れると、後ろの仕事も遅れて、結果として長時間労働・残業になってしまう。
これをXという仕事は〇日または×時までに仕上げて、Yという仕事は〇日または×時から着手するといったように、時間に仕事を割り当てる。学校の授業の時間割と同じと考えるとイメージしやすい。つまり仕事には終わり(締切)と次の仕事の開始日時を設定する。締切りが来たら、仕事が未完成でも、次の仕事を始めさせる。こうすると仕事の質・量と社員の能力の釣り合いが明らかになると同時に、生産性の悪い人が一目瞭然になる。業務量が過大な人や生産性の悪い人は業務量を調整するか時間を延長する。
こうした指図や差配、つまりマネジメントをするのが管理職の仕事になる(さらに時間切れで未完成になった部下の仕事の引き取りも)。管理職になると「人を管理するのではなく仕事を管理せよ」と説かれるが、それを実現するには仕事を人に付け、時間に仕事を付けるやり方に改める必要がある。
また時間に仕事を付ける手法に改めると、社員は生産性を向上させるため、自分であれこれと工夫をしたり、改善に取り組んだりといった自主性を発揮するようになる。締切りまでに仕事が終わらないと未完成の仕事が積み上がり、誰の目にも効率の悪さが目立ってしまう。さらに人事評価や目標管理で芳しい評価は得られず、給料や賞与、職位(ポスト)はやがて自分の生産性に応じた額や地位に収斂する。
「コロナ禍」「働き方改革」という一見ともすれば災いとも受け取れる出来事を好機として、会社の生産性向上と体質強化を目指してみては如何だろう。
2020/2/21
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