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妊娠・出産・育児に関わる法律と手続き(会社版)



かつて女性社員と言えば、結婚や妊娠・出産に伴い退職し、その後、子育てが一段落したら再就職するのが一般的だった。そのため年齢構成ごとの女性の労働力率を示したグラフは30代から40代が落ち込み、アルファベットのMに似ているため「M字カーブ」と呼ばれていた。

しかし最近は結婚や妊娠・出産後も働き続ける女性社員が増えており、M字カーブは消えつつある。その背景には国による法整備が充実してきたことも挙げられる。妊娠・出産・育児にかかわる法律は労働基準法、育児介護休業法、男女雇用機会均等法、健康保険法、厚生年金保険法と多岐に渡る。また雇用形態の多様化が進み、社会保険に加入するパート・アルバイト、限定正社員といった労働者も増えつつあり(※)、男性社員の育児参加に対する社会的な要請も高まっている。今回は妊娠・出産・育児に関わる法律や手続きの概要をまとめてみよう。

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妊娠から出産後1年まで


妊娠中および産後1年を経過していない女性については 労働基準法 により、重量物の取り扱いや危険有害業務への就業が禁止される。また労働者から請求があれば企業は、①より軽易な業務へ転換しなければならず、そして②時間外・休日・深夜の労働を命じることができず、フレックスタイム制を除く変形労働時間制の適用も出来なくなる(女性の管理監督者については、深夜労働だけが禁止)。ただし、これらはあくまで女性労働者からの請求があればという条件付きなので、請求がなければ特段の措置を講じる必要はない。

妊娠中及び産後の1年は 男女雇用機会均等法 によって、会社は医師等の指導に基づき 母性健康管理措置 を講じることが義務になっている。女性労働者が保健指導を受けるための時間を確保することや、医師等の指導により勤務時間の変更や仕事内容の軽減などの必要な措置を講じなければならない。特に女性労働者から「母性健康管理指導事項連絡カード」が提出された場合は、記載された内容に基づき人事労務管理上必要な措置を講じる必要がある。

「母性健康管理措置」によっては、産前42日前から休業に入る女性社員もいる。こうしたケースでは、医師が労務不能であると証明すれば健康保険から 傷病手当金 が支給される。傷病手当金を受給したまま、産前42日の休業期間に入ると今度は 出産手当金 が支給されるが、そうなると傷病手当金は支給されなくなる。

傷病手当金と出産手当金の支給額の計算方法は同じだが、傷病手当金を受給しているとその間、報酬がなく、直近1年間の各月の標準報酬月額の平均が下がり、出産手当金の額が傷病手当金の額を下回ってしまうことがある。そのため平成28年4月の改正により、出産手当金と傷病手当金の支給額に差がある場合は、差額分は傷病手当金として支給される。なお傷病手当金も出産手当金も給料が支払われると支給調整が行われ、差額支給あるいは全額が支給停止になる。

女性社員の産前産後休業期間中に会社は「産前産後休業取得者申請書」を年金事務所に提出することで、本人と会社、双方の社会保険料が免除される。この社会保険料の免除は報酬の有無に関わらず適用されるため、女性の会社役員などで産前産後休業期間中に報酬が支払われる場合も社会保険料は免除される。





無事に出産が終われれば、被保険者には 出産育児一時金 が支給され、被保険者の被扶養者が出産した場合は 家族出産育児一時金 が支給される。これらは被保険者本人が支給申請を行うため、会社は支給手続きの案内だけをすればよい。

出産後は労働基準法により、8週間の労働が禁止されている。6週間が経過した段階で本人が請求し、医師が支障がないと認めた業務に就かせることはできる。労働が禁止されている8週間の所得補償として出産手当金が支給される。

この産後休業の期間中に復職をあきらめ退職する人もいる。この場合、健康保険の資格喪失日の前日まで継続して1年以上被保険者であれば、資格喪失後も出産手当金は支給される。継続して1年以上は現在の会社の被保険者期間だけでなく、前職の会社の被保険者期間も通算される。ただし「継続して」という要件があるため、被保険者期間が連続していることが必要になる。任意継続被保険者であった期間は通算の対象にならない。


育児休業期間中


産後休業が終わり、直ちに復職しない場合はそのまま 育児休業 に入る。有期雇用契約の社員の場合、育児休業を取得するには、①現在の会社に1年以上継続雇用されていること、そして②子供が1歳6カ月に達する日までに雇用契約期間が満了し、更新もされないことが明らかでないこと、という2つの要件を満たす必要がある。

育児休業は休業開始予定日の1カ月前までに会社に申し出ることで取得することができる。会社は育児休業の申し出でがあった場合、①育児休業の申し出を受けた旨、②休業開始日、終了予定日、③育児休業を拒む場合はその旨および理由を書面(育児休業取扱通知書)で通知しなければならない(施行規則・第7条4項)

育児休業期間中は子供が3歳に達するまでは本人と会社の社会保険料が免除される。この申請は会社が年金事務所に「育児休業等取得者申請書」を提出することによって行われるが、育児休業の期間中に複数回、申請を行うケースもある。母親が子供が1歳に達するまで育児休業をして、その後に職場復帰するといったケースでは申請は1回で済むが、保育所等へ入れないなどの理由で育児休業を延長すると、延長期間ごとに申請書を提出する必要がある。延長期間は、子供が①1歳から1歳6カ月まで間、②1歳6カ月から2歳に達するまでの間、③会社独自の制度により2歳を超えて3歳に達するまでの育児休業に準ずる措置の間ごとに分かれる。

また男性社員が育児休業を取得する場合も社会保険料は免除される。ただし社会保険料の免除は、育児休業を開始した日の属する月から終了した日の属する月の前月までが対象になるため、数週間といった短期間の育児休業では免除にならないこともある。





育児休業期間中は雇用保険から 育児休業給付金 が支給される。支給される要件は、休業開始日の前2年間に雇用保険に12カ月以上加入していることで、支給期間は最大で2年間になっている。男性社員が育児休業を取得した場合も、育児休業給付金は支給され、夫婦が同時に育児休業をした場合は、夫婦それぞれに育児休業給付金が支給される。

育児休業給付金が計算される支給単位期間ごとの就業が10日以下(10日を超える場合は80時間以下)であれば、育児休業しているものとして扱われ、育児休業給付金が支給される。ただし就業により賃金が支払われるため、支給金額の調整は行われる。

育児休業期を当初の予定より早めに切り上げて復職する場合は、「育児休業等取得者終了届」を提出し、社会保険料の免除も復職に合わせて終了する。また育児休業給付金も支給されなくなる。また逆に育児休業期間中に復職をあきらめて退職する場合もある。この場合は退職を申し出た日から実際の退職日までの間については育児休業給付金は支給される。

妊娠・出産・育児による退職は自己都合退職になり、再就職に向けた意思と能力がなければ雇用保険の基本手当(失業保険)は支給されない。しかし引き続き30日以上職業に就くことができない場合は、基本手当の受給期間の延長手続きを行うことで、最大4年間まで受給期間が延長される。またこの延長措置を受けることで「特定離理由職者」となり、自己都合退職よりも有利な扱いがなされる。

延長措置を受けるためには、通常での退職と同じように離職後、本人がハローワークに出向き、所定の手続きを済ませておくことが必要になる。


育児休業後に職場復帰した場合


復職後は 育児介護休業法 の定めにより、会社は3歳未満の子供を養育する労働者から請求があった場合、所定労働時間の短縮措置を講じることが義務になっている。この短縮措置の中には所定労働を6時間とする制度を必ず入れなければならない。

そして、労働者から請求があれば、①所定労働時間を超えた労働を免除しなければならず、②子供が小学校へ入学するまでの間は、時間外労働は月に24時間まで、1年間では150時間までに制限される。深夜業については請求があれば労働をさせることができない。

また 子の看護休暇制度 により、労働者は病気やケガをした子供の世話や疾病の予防のため、1年度(会社が特に定めなければ4月1日~3月31日)に5労働日を上限に休暇を取得することができる。この休暇を有給にする必要はないが、年次有給休暇と異なり会社には時季変更権がないため、労働者の休暇取得の希望日に休暇を付与しなければならない。なお令和3年1月から5日の休暇については時間単位でも取得できるように改正されたが、始業時間または終業時間と連続している必要があるため、労働時間の合間に取得する、いわゆる「中抜け」はできない。

産後休業や育児休業明けに復職し短縮勤務制度を活用すると労働時間が減り、復職前に比べ給料が減少することがある。このため社会保険の標準報酬月額に1等級以上の差が生じれば会社が「産前産後休業終了時報酬月額変更届」や「育児休業終了時報酬月額変更届」を年金事務所に提出することで、本人・会社双方の社会保険料負担が軽減される。

また将来受け取る年金の減少を避けるため、3歳未満の子供を養育する間は年金額を計算する際の標準報酬月額を休業前の高い額で計算する特例制度がある。この制度の適用を受けるためには被保険者が申し出て、会社が「養育期間標準報酬月額特例申出書」を年金事事務所に提出する。この特例制度は中途採用された男性社員に3歳未満の子供がいる場合にも提出することができる。なおこの養育特例は被保険者の申し出によって行う制度ため、会社に提出義務がある訳ではない。

これら復職後の扱いについては男女間で差がないため、男性社員にも適用される。




2021/3/23





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