人事労務管理と人材マネジメントに関する情報発信

働く大人のための学びがわかる本


日本人の平均寿命は戦後一貫して伸び続けている。医療の進歩により、私たちの平均寿命はさらに伸びると予想され、今後生まれてくる人たちの約半数は100歳まで生きるとも言われている。

こうした傾向に合わせて、かつては55歳だった定年年齢も引き上げられており、現在の60歳定年が65歳に引き上げられる日もそう遠い話ではない。場合によってはさらなる延長や定年そのものが撤廃されるかもしれない。もはや「定年後は悠々自適」は夢物語になり、代わって「生涯現役」がキーワードになるだろう。

公的年金の将来性が危ぶまれる点も相まって、誰もがこれまで以上に長く働くことになる。その際に大きな問題になるのが、私たちが学び続け変化することが求められる「学習社会」にいながら、誰も大人の学び方を教わっていないことだ。

それが今まで大きな問題にならなかったのは、会社が終身雇用を保障した上で、定年後の人生もさほど長くなかったため、人生設計は会社に任せておけばよかったからだ。


3つの原理と7つの行動


しかし今はVUCAの時代と言われるように、変動性(Volatility)、不確実性(Uncertainty)、複雑性(Complexity)、曖昧性(Ambiguity)が増しており、多くの経営者が先行きの不透明さに直面している。そのあおりを受け、終身雇用の維持は困難になりつつあり、私たちは自分の生き方を一つの組織に委ねておくことが大きなリスクになってきた。

こうした状況の中で、本書「働く大人のための学びの教科書」はいかにして長期化する仕事人生を完走できるのかという問いに向き合い、大人にとっての学びとは何か、なぜ学ぶことが必要なのか、どうやって学んで行けばよいかについて、「3つの原理」と「7つの行動」という形で「100年ライフを生き抜くスキル」を紹介している。

著者の中原淳氏は大学教授として長年、経営者や人事担当者向けに人材開発やリーダーシップ研究に取り組んでいるが、本書では一般の人たちを読者として想定していて、専門用語は極力用いず、平易で読みやすい内容になっている。



著者・中原淳


著者が示す「3つの原理」とは、①背伸びの原理 ②振り返りの原理 ③つながりの原理で、これらがパソコンのOSに相当し、これらの上で動くソフト、アプリケーションが「7つの行動」に当たる。

「3つの原理」を実践している身近な例として、スポーツ選手が挙げられる。彼らはいずれも①背伸びの原理により、今の自分の力を上回るような負荷のかかった目標を設定している。そして試合や競技が終わるごとに②振り返りの原理により、できなかった点やミスをした原因を振り返り、修正すべき点を以後の練習に取り込んでいく。

さらに、③つながりの原理により、日頃から身近にいる監督やコーチなどからアドバイスを受け取り、②の自分の振り返りだけでは気が付かなった点についても気づきを得ている。ビジネスパーソンがスポーツ選手と同じような状況に身を置くためには「7つの行動」を実行すれば良い。

「7つの行動」とは、①タフな仕事から学びを得る、②たくさんの本を読む、③人から教えられて学ぶ、④慣れ親しんだ場所から離れて気づきを得る、⑤自らフィードバックを取りに行く、⑥人々が集う場所を作る、⑦他人に教えてみる





リアルな人物の事例からも学べる


学びや学習と聞くと、学校での授業や会社の研修、資格取得のための勉強といった学びを思い浮かべる人もいるだろう。だが大人の学びは座学や知識を習得する学びだけに留まらない。

仕事を通じての学びがあり、自ら行動する中で経験を蓄積し、次に活躍する舞台への移行を目指し、変化することが大人の学びと言える。本書では大人の学びを実践している7人のビジネスパーソンが紹介されているので、具体的な大人の学びのあり方がどのようなものなのかがわかるだろう。

著者によれば、古代社会は大人になればずっと大人でいられたが、近代社会は大人は何もしなければ、大人でいられない社会であると言う。著者のこれまでの研究テーマは新入社員や管理職の育成という、いわば「登山」の研究が主だったが、最近は多くの企業関係者から長い仕事人生を完走し、キャリアを全うするにはどうすればよいかという、「下山」や「再登頂」の研究成果を求める声が日増しに高まっているという。

「下山」の際に道に迷って遭難しないために、あるいは厳しい現実を前にして「再登頂」をあきらめてしまわないために、一読されてみてはいかがだろう。



「働く大人のための学びの教科書」の表紙

働く大人のための「学び」の教科書
中原淳・著 かんき出版刊 税別1500円


2023/2/18


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