人生100年時代を乗り切る方法
「人生100年時代」という文言は世の中に定着した感がある。この言葉の生みの親とも言えるのがベストセラーとなった「LIFE SHIFT」という本であり、その著者の二人が続編を刊行した。
前作では長寿化が私達の仕事や人生にどのような影響をもたらすのかが描かれた。これまでの学校教育→仕事→引退後という3つのステージを送るという時代は終焉を迎え、私たちは
マルチステージ という数多くのステージを移動しながら人生を送る。前作についての記事はこちら
今回は長寿化に加え、テクノロジーの進化によって人生の土台をなす仕事、生活、家庭という要素が変化しつつある中で、新しい社会のあり方に目を向け、私たち個人の未来について考え、変化と波乱を主体的に乗り切る手立てを示している。自分らしく、充実した人生を送るために取るべき行動を「物語」「探索」「人間関係」という3つのテーマに沿って考える。
現実感が伝わるように架空の人物たちが登場し、彼らの置かれている現在の状況から、この先どのように行動すればよいかが述べられる。登場するのは日本人の若い男女のカップル、ネットで仕事を請負い、フリーランスで働くインドの独身女性、ロンドン在住のシングルマザー、中高年に差し掛かったテキサス在住の長距離トラックの運転手、定年が迫っている中、解雇されたシドニーの会計士、70歳で仕事復帰を目指しているイギリス人の元エンジニアという顔ぶれだ。
年齢や時間、仕事に関する見方を変える
自分らしい人生の「物語」(ストーリー)を紡ぐために、私達は年齢に対する固定的な見方を変える必要がある。健康寿命が長くなることで、従来のような40歳代は中高年、60歳は高齢者といった固定的な見方は適切ではなくなってくる。また生年月日による暦年齢以外にも、生物学的年齢や社会的年齢、主観的な年齢も考えられる。人によって年齢のもつ意味は大きく変わる。
そして、現在を中心にして近接した過去と未来に重きを置くという時間に対する見方も変えなければならない。人生が長くなれば、遠い将来を見据えた行動や投資がこれまで以上に重要になる。仕事に対する考え方も変える必要がある。職(ジョブ)と課業(タスク)を分けて、タスクは人工知能やロボットに委ねる。機械を仕事を奪う存在としてみなすのではなく、共存し協働する存在という見方に転じる。
予想される雇用の未来は機械による自動化で生じる「置き換え効果」により、雇用が減少する反面、機械がもたらす生産性拡大による雇用の増大という相反する面が出現する。無くなる仕事や職が増えるものの、今は名称すら存在しない新しい職種や職業が登場してくる。
職業人生の長期化と余暇時間の増加、フルタイム以外の働き方の広がりにより、キャリアの流動性が高まる。仕事の時間はカネを得るためという位置づけに留まらず、現在と未来に向けた手持ちの資源・リソースを手厚くするための学習やスキルの獲得といった投資のための時間という概念に変質する。
これから必要な5つの行動とは
マルチステージの人生では「探索」という試行錯誤を繰り返しながら、自分の進む道を見つける。様々なステージに移行していくには学習が欠かせない。私たちにとって移行が難しいのは、移行によって自らのアイデンティティが変わらざるを得なくなるからだ。
移行を成功させるには学習によってアイデンティティを変え、自らの人的ネットワークを変えることが欠かせない。大人の学びには一緒に学ぶ仲間である コミュニティ・オブ・プラクティス(実践共同体)も重要な役割を果たす。
マルチステージの人生は柔軟性が高く、成長と進化を遂げるチャンスも増える。だが「人間関係」を深めるための投資や努力を怠ると人生が細切れになり、漂流状態になる恐れがある。人間関係には家族、友人、マルチステージごとに関わり影響をもたらす人たち、地域コミュニティや隣人、異なる世代間同士との交流などがある。
著者たちは本書の最後で、これからの時代を生き抜くため、5つの行動を指摘している。
- 誰もが逃れられない変化に対応するのは自己責任になるため、今からすぐに行動して先手を打つ
- 前の世代の人よりも残された時間が確実に長くなる将来を見据えた上で、進路の選択を行う
- 常に変化を続ける「ありうる自己像」=「自分らしさ」を意識して、人生の早い段階で選択肢を狭めないようにする
- どのように時間を費やし、どのようなステージを歩むのかは人によって異なるという人生の「可変性」が高まることに気づき、現在の自分の行動が将来の自分に跳ね返ってくるという「再帰性」を意識する
- ステージの移行を拒まずに受け入れ、深い人間関係を構築・維持することに努める
私たちは様々なリスクに直面している反面、空前のチャンスも手にしようとしている。長く生きることで自由に使える時間が増え、選択肢も増える。会社や他人の犠牲になる人生ではなく、自分らしく生きることができる将来を得る可能性が広がっている。
人生100年時代を乗り切るチェックリスト
<自分ならではの「人生の物語」を綴る上で考えてみるべきこと>( p120~)
- 現在の自分のキャリアに突然、終止符が打たれる可能性はどれぐらいあるかを考えてみる。そして、そうした事態に見舞われた時、別の道に進めるように幅広い人生の足場が築けそうかも考える
- 自分の思考が狭くなり過ぎていないか振り返ってみる・・・他に選択肢はないか/もっと実験的な試みや思い切った行動はできないか/人的なネットワークが狭い範囲にとどまっていないか
- 年齢に関して誤った思い込みを抱いていないか・・・生年月日に基づく年齢にとらわれ過ぎていないか/人生の早い段階で選択肢を限定していないか
- 社会の仕組みの変化を考慮に入れているか・・・企業の慣行や人事制度、社会人教育のあり方、政府の政策や法律など
- 時間の使い方の再配分を検討してみる ・・・ある特定のステージにいる時、他のステージのために時間を再配分できないか(例:会社員の副業など)/再配分に当たっては何を重視するのか(経済的報酬、スキル、家族や友人との生活など)も考える
<探索しながら人生のステージの「移行」を成功させるために考えること>(p162~)
- 今、十分な探索を行っているか・・・ 自分の「物語」(ストーリー)の幅を広げた上で探索を行っているか/未来の選択肢を狭めていないか/未来の可能性について幅広い助言を求めているか
- 人生の計画を修正するのに役立つ人的なネットワークを築けているか
- 思い描いている進路やステージの一つ一つについて、内面からモチベーションが沸き立ち、主体的に学習できるか
- 計画しているステージの中に学習量が多いものが含まれているか。人生では経験の幅が大きく広がり、刺激的な人たちに囲まれて過ごす経験が重要な意味をもつ
- 計画しているそれぞれのステージで、どれくらいスキル、能力、人的ネットワークといった「足場」を築ける機会があるかを考える。そうした機会が少ないと未来の選択肢が狭まってしまう恐れがある
- 人生のステージのそれぞれで、学習が促進されるような「場」を作れるかどうかを考えてみる
- 学習を促進に必要な人材に囲まれて生活するために、どこに住居を置くかを考えてみる
<人間関係づくり> (p219)
- 人間関係を構築するための十分な時間を確保できているか
- 身近な人たちと、どのような未来を望むかを明確に話し合っているか
- あなたと身近な人たちの双方とも、環境変化に対する適応力が持てているか
- コミュニティとの関わりに時間を費やす用意はできているか
- さまざまな年齢階層の人たちと交流する用意はできているか
2023/04/19
LIFE SHIFT2~100年時代の行動戦略
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