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同一労働同一賃金に伴う手当の見直し


2021年4月から、同一労働同一賃金を定めた パートタイム・有期雇用労働法 が施行されたことにより、各種の手当を見直す企業が増えている。その際、非正規雇用の社員は労働日や労働時間が短い場合が多いため、新しく支給する手当の額を正社員よりも少なくするケースがある。

そうなると正社員が欠勤や休職したら、手当も減額しないとバランスを欠くのではないかという話に行き着く。正社員の勤務日数が減った場合、手当を減額することはできるのだろうか

手当を減額できるか否かを見定める基準は手当が賃金なのか、それとも福利厚生費や恩恵的給付なのかによる。原則に従えば、賃金に該当すれば減額は可能だが、福利厚生費等に当たれば減額はできない。

就業規則の賃金項目や賃金規定に手当についての記載があり、それに基づき支給されていれば賃金となる。賃金は労働基準法の「全額払い」の原則で保護される反面、労働に対する見返りであり、労働した後に請求権が生じることから欠勤や休職などにより労働しなかった分については減額が認められる。ただし欠勤しても賃金控除が行われない、いわゆる「完全月給制」の場合は手当も減額はできない。

以下、個別具体的な手当の減額について取り上げる。





通勤手当・家族手当・住宅手当について


<通勤手当>
多くの会社では通勤手当の規定があり、賃金として扱われる場合が多い。そのため出勤しない日についての減額は可能だが、「定期券を支給する」といった規程であれば労働者との個別の合意が必要になる。

また就業規則や賃金規定を変更し、減額の定めを置くことは不利益変更にあたるため合理性が求められる(労働契約法第8条・9条・10条)。在宅勤務により出勤日が減ることによる通勤手当の減額は合理性が認められる余地が大きいと思われるが、通勤定期券を購入している社員がいる場合は、別途、対処を講じた上で減額の定めを設けないと合理性が否定される恐れがある。


<家族手当や住宅手当>
これらの手当が賃金か福利厚生費かについて最高裁は2つの判断を示している。いずれもストライキで手当がカットされた事件で、「明治生命保険事件」(昭和40年2月5日)では、賃金カットの対象になるのは拘束された勤務時間に応じて支払われる賃金としての性格を有するものに限られ、生活補助費としての性格を有するものについてはカットの対象になし得ないとしている。

また「三菱重工長崎造船所事件」(昭和56年9月18日)では、賃金カットの範囲は労働協約の定めや労使慣行の趣旨に照らして個別に判断すべきであるとしている。そのため支給規定や減額規定の有無、支給の実質、これまでの労働慣行などに基づいて、賃金なのか福利厚生費等なのかが判断される。

ただし福利厚生費とされても、家族の人数や住居の広さなどに応じて金額に差を設けず、該当者には全員一律同じ金額が支給されている場合などは賃金としての扱いになり、減額の対象になり得る。

その他に、就業規則や賃金規定に定めがないまま支給されている手当も相当数見受けられる。こうした場合も手当の名称といった名目で判断するのではなく、支給の実質で賃金か福利厚生費なのかを判断する。ここでも支給されている金額が全員同じといった場合は賃金と判断され、減額の対象になり得る。


皆勤手当・精勤手当について


欠勤によって皆勤手当・精勤手当が支給されないのは当然の扱いだが、問題になるのは有給休暇を取得した際だ。

労働基準法は附則の第136条において、会社は有給休暇を取得した労働者に対して賃金の減額その他の不利益な取り扱いをしないようにしなければならないと定めている。また通達においても、精皆勤手当について有給休暇を取得した日を欠勤として扱う取り扱いはしないようにしなければならないとしている(昭和63年1月1日基発第1号)

これについて最高裁は「沼津交通事件」(平成5年6月25日)において、現在の労働基準法の136条は会社の努力義務を定めた附則であり、会社が規定する有給休暇の取得によって皆勤手当を減額または不支給にするという私法上(市民一般の関係を規律する法)の効果を否定するまでの効力を有するものとは解されず、精勤皆勤手当の減額は無効ではないという判断を示している。

ただし同判決では、有給休暇の取得を抑制するような効果を持つ場合は除かれるとされている。このため皆勤手当・精勤手当を支給する趣旨や目的、支給額、減額される場合の程度などから、実質的に有給休暇の取得を抑制する効力があると認められると、皆勤精勤手当の減額は認められない。


2024/05/04


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