名物教授が教える幸せな人生の送り方
世の中には上手く行かないことが多々あるが、その最たるものは人生だろう。誰もが幸せな人生を送りたいと願っているが、それが叶えられる人もいれば、そうでない人もいる。充実した自分らしい人生を送るにはどうすればよいのだろう?
ハーバート大学のビジネススクールを卒業する学生たちに向けた最後の授業で、幸せな生き方について講義をしていたのがクレイトン・クリステンセン(Clayton Christensen)教授だ。同教授は破壊的イノベーションによって大企業が新興企業によって淘汰される仕組みを明らかにしたことで広く知られており、同大学では企業のマネジメントがもたらす様々な側面を説明する理論を教えていた。
Clayton Christensen
クリステンセン教授はビジネススクールで学んだ理論は卒業後に企業で活かせるだけでなく、人生にも応用できると説く。理論は気まぐれではなく、一部の会社や人にだけあてはまるものではない。そして人生の状況に応じて賢明な選択をする手助けをしてくれる。確かな理論は「何が、何を、どのように引き起こすのか」を説明し、あなたの決定や行動の結果、何が起こるのかという未来を予測してくれる。
今回はその授業にお邪魔して、その一部を拝聴させてもらおう。講義の内容は ①幸せな仕事の見つけ方、②幸せな人間関係の築き方、③道を踏み外さないための生き方の3部で構成されている。
幸せな仕事の見つけ方
ここではホンダの米国進出の事例を基に、意図的戦略 と 創発的戦略 のバランスの重要性が語られる。ホンダは米国の大型バイク市場に進出しようとしたが、馬力不足と部品トラブルで出鼻をくじかれた。
そんな時、アメリカ駐在のホンダの社員が休日に、日本から持ち込んだスーパーカブを公園で乗り回して遊んでいた。それを見たアメリカ人たちが興味を持ち始め、徐々に引き合いが増えていく。やがてホンダは大型バイクに代わり、スーパーカブの販売に戦略を転換し成功を収める。
私たちのキャリアもホンダの大型バイクの「意図的戦略」のように、あらかじめ計画を立て実行に移しても、その通りにはいかないことが多い。キャリアの道筋は予想もしなかった偶然の機会から芽生えることもある。そのため、時と場合によっては「創発的戦略」も採用する。会社も私たちも想定された機会による意図的な戦略と、予期されない偶然の機会がもたらす創発的な戦略を選びながら道を進むべきである。
もしあなたがすでにやりがいのある仕事が見つかっているなら意図的戦略を推し進め、そうでない時は創発的戦略を取り入れる。キャリアで実験をしてみたり、人生の窓を開け放して自分に正直になり、様々な機会を試したり、時には思い切って方向転換をしてみる。自分に合った仕事かどうかを見極める方法としては「DDP計画法」(Discovery-Driven
Planning・仮説志向計画法)が応用できる。
じっと待っているだけでは道は開けない。
幸せな人間関係の築き方
家具販売イケアの強みや、大手ファーストフード・チェーンの販売促進の事例から、顧客の製品購入の動機は自分の用事を片づけるためという「片づけるべき用事の理論(ジョブ理論)」が取り上げられる。
イケアは特定の顧客層に合わせて品揃えをしているのではなく、顧客が必要な「用事」を片付けるのに役に立つ店作りをしている(例えば引っ越しをする人が新居で生活するために必要な家具を揃えるという用事)。ファーストフード店で顧客がミルクシェイクを買うのは、通勤途中で運転しながら朝食を済ませて、ランチまで腹持ちさせたいという「用事」を片付けるためだ。
この「片づけるべき用事の理論(ジョブ理論)」は、結婚生活、親子関係、友人関係にも応用できる。相手が求めている用事にたどり着くことが人間関係の構築には欠かせない。相手の用事を理解した上で、その用事を片づけることに時間と労力を費やす。
いつでも仕事と人間関係の優先順位を変えられると思っていると、取り返しのつかない事態に陥る恐れがある。人生における幸せとは、自分を幸せにしてくれる人を探すだけでなく、自分を犠牲にしても幸せにしてあげたいと思えるような人を探すことだ。
道を踏み外さないための注意点
レンタルビデオの最大手チェーンだったブロックバスターは、限界的思考の落とし穴にはまり、新興企業のネットフリックスとの競争に敗れ、倒産に追い込まれた。
既存の資産を温存させ、それらを活用した投資による「限界費用」は、新分野への投資よりも低くなり、そこから生じる限界利益は新規投資よりも収益性の点で勝っている。このため過去に成功した企業はこれまでに蓄積した資産の活用を前提に、限界費用 と 限界収益 に着目して投資判断を行ってしまう。
この判断は将来が現在の延長線上にある場合には正しいが、イノベーションによって今とは違う土俵で勝負する未来では成り立たない。限界的思考で投資判断をすれば、将来に必要になる競争力を獲得する機会を失い、大きな損失を被ることになる。
私たちも無意識のまま善悪の判断において、この限界費用の考え方を用いてしまう。自分の信念や信条、価値観に反する行為にも関わらず、「一度だけ」「今回だけ」という限界費用と限界収益の誘惑にかられて行うと、最終的に人生における総費用を上回る。
「一度だけ」「今回だけ」を口実にした行為は2度目、3度目のハードルが下がり、歯止めが効かなくなり、道を踏み外してしまう。その結果、会社から追放されたり、社会から糾弾され、最悪の場合は収監される。限界費用と限界収益の「一度だけ」「今回だけ」という誘惑の先に待っているのは後悔だけだ。
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自画像を描く
クリステンセン教授は講義の締めくくりで、企業も人生も成功するには信念や信条、理念に基づく目的を持つことが大切と語る。そしてこの目的は待っているだけで得られるものではなく、明確な意図を持って構想し、選択し、追求して、管理していかなけれならない。
目的が意味を持つためには「自画像」を描く。「自画像」とは、この先、こんな風になっていたいと思い描く自らの姿だ。偶然に辿り着いたり、到達してその姿に驚くようなものであってはならない。ちなみにクリステンセン教授の「自画像」は、人がより良い人生を送れるように助けることに身を捧げる人生、そして思いやりがあり、誠実、寛容で、献身的な夫、父親、友人であることだ。
理論を正しく理解し、それがどのようにビジネスに活かされるかを学んだ上で、自分の人生にどうあてはめるかを自力で考え続ける。このプロセスを通じて理論は私たちの人生の問題を考える上での枠組みになる。
今回、取り上げた以外の理論はクリステンセン教授の著作、「イノベーション・オブ・ライフ」に収録されている。
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2024/12/28
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