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好きな事を仕事にしていますか


スノーピークと言えば、キャンプ好きな人には知られた存在だろう。群を抜く高品質・高価格なキャンプ・アウトドア製品を製造販売している。前社長・現会長の山井太(とおる)氏は無類のキャンプ好きで、年に40日〜50日もキャンプをするし、社員も全員アウトドアが大好きで、会社の目の前には自社のキャンプ場もある。気が向けば週末に仕事が終われば、そのままキャンプをして、休み明けはキャンプ場から職場へ向かうこともできる。



山井太氏


山井太氏が父親の会社に入社したのは1998年で、当時の年商は5億円、社員数15人だったが、それを上場させるまで成長させた。しかし山井氏はMBO(Management Buyout)という手法によって上場を廃止することを決断した。非上場にする理由は定かではないが、今後必要となる海外展開や企業買収といった機動的かつ積極的な施策を展開すれば、短期的には収益が落ち込む恐れがあるため非上場化する判断に至ったようだ


経営理念はコンパス


非上場後も経営の舵取りを担う山井氏が大切にしているのが経営理念だ。父親の会社に入社してすぐに、経営理念がないと何のために働くのかわからないと思い、社員たちと話し合って経営理念を明文化した。スノーピークにとって経営理念はコンパスのように常に真北という一定方向を指し示す存在だ。

経営にコンパスが必要なのは、スノーピークが常に世の中にない製品作りを目指しているからだ。山井社長が入社した当時、市場で売られていたテントは9,800円と19,800円で、雨が降れば雨漏りし、強風に合えばすぐに倒れた。山井社長は自らのキャンプ体験から、しっかりしたテントが欲しいと思い、168,000円もするテントを作って発売した。社員の誰もが売れないという予想に反し、1年で100張ほどが売れた。

こうしたテントに象徴されるようにスノーピークでは、使った瞬間に品質や使い勝手の良さが感じられる高付加価値な製品を提供している。そのため前例や手本はないし、市場調査やマーケティングもしない。だから常にブレない経営方針が欠かせない。

同社はハイエンドなキャンプ用品というこれまでにない市場を創造しただけでなく、「オートキャンプ」という新しいスタイルも生み出した。それまでのキャンプが学校行事や、ホテル・旅館の代用であったものを、SUV(スポーツ・ユイティリティ・ビークル)と呼ばれるレジャーに適したクルマを使ってキャンプをするというもので、世界でも初めてのスタイルだった。





つながりを回復させる


山井社長によれば、自然の中で豊かで贅沢な時間を過ごすためにキャンプをするというのがアウトドアの社会的な意義であるという。アウトドアをストレス過多の高度化した文明社会の問題解決型ビジネスと捉えている。そしてアウトドアによって人と自然がつながるだけでなく、人と人とのつながりを回復させる。その象徴とも言えるのが「スノーピークウェイ」だ。

これは会社主催のキャンプにユーザーを招待し、社員と顧客が共にキャンプをしながら交流を深めるイベントだ。招かれるのは「スノーピーカー」と呼ばれる同社の固定客で、熱心なキャンプ愛好家だ。メインイベントの「焚き火トーク」では焚き火を囲んで山井社長や社員、そしてユーザーがキャンプ談義に花を咲かせる。会社とファンとの結びつきを深めるだけでなく、ユーザー同士も知り合い、交友関係を作り上げる。



実際の焚き火トークの模様


「スノーピークウェイ」が始まったのは、山井社長が入社して10年余り経過した時だった。オートキャンプのブームが終わり、売上が急降下した。ユーザーと接していると元気になれるという社員の声もあり、顧客を招待するキャンプを始めた。その場で製品の販売はせず、顧客と語り合うことで製品についての意見や経営のヒントを得る機会を得た。

顧客からの値段が高すぎる、品揃えのよい店がないという意見を受けて、問屋を通じた販売から直販に切り替え、流通コストを削減して価格を見直すという販売戦略の大転換にも着手した。メーカーが直販に乗り出せば既存の得意先との取引は減るだけでなく、これまでにない人材や販売・店作りのノウハウ、店舗運営が求められる。

山井社長はスノーピークは自分たちが好きな製品だけを作る会社であり、こうした自分たち独自の目線を持つ会社が少ないと語る。売上や利益だけを目標にしたり、思考軸が同業他社への対抗策に向けられているだけという会社が多いことは残念でならないようだ。

中小企業は経営資源であるヒト、モノ、カネはいずれも大企業に太刀打ちできない。だが「好きなことをしよう」という思いだけは大企業も凌ぐことができる。経営だけでなく、個人としての生き方やキャリアでも「好きなことをする」という目線で考えてみてはどうだろう。




スノーピーク 「好きなことだけ」を仕事にする経営
山井太・著 日経BP社・刊 税別1200円


2025/03/16



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