人事労務管理と人材マネジメントに関する情報発信

サイゼリヤ流 経営のレシピ


人は誰でも自分の考えや判断は正しいと思っている。そして地位が上がるに連れ、それは思い込みになり、こだわりや執着を生む。ここから脱却して会社を成長させたのがサイゼリヤの創業者、正垣康彦氏だ。「自分の店の料理は美味いと思ってはいけない」と語る正垣氏の経営を探ってみよう。


正垣康彦

正垣康彦氏


↓この記事の解説を対話形式の音声ファイル(M4A)で再生(19分)

M4Aのアイコン


正垣氏は大学を卒業すると同時に、それまでの飲食店でのアルバイト経験を活かそうと、バイト仲間と共に飲食店を始めた。相談した父親が見つけてきた物件は、千葉県市川市の流行っていない飲食店だった。立地は悪く、1階が青果物店で、横にある階段を昇った2階だった。

開店したものの場所の悪さがたたって客は少なく、閑散とした日々が続いた。売上を増やそうと午前4時まで営業したら、反社会的な連中のたまり場になり、客同士のケンカがきっかけで火災が起こって、店は全焼してしまう。

別の場所で店を再開させようとしたが、母親は同じ場所でやり直すことを勧めた。母親は「あの場所はあなたにとって最高の所だから、同じ場所でやりなさい」と言う。正垣氏は母親の考えが理解できないまま、勧めに従って同じ場所で店を再開させる。しかし相変わらず客は増えなかった。

そこで試しに値段を徐々に下げてみた。すると客足も少しずつ増え始め、7割引きにまで下げた時、店には客が押し寄せた。それまでは1日20人ぐらいだったのが、600人から800人まで増えた。さばききれなくなったので、近くに別の店を出して、入れない客はそちらへ回ってもらった。

7割引きにすれば利益は出なくなりそうだが、正垣氏はムダをなくすことで利益を出し、客数をもっと増やすことで利益の絶対額は大きくなると考え、多店舗化を目指した。


物事を正しく見る大切さを知る


正垣氏は後になって母親の教えがわかった。今、起きていることは自分にとって最高の出来事と考えることで、物事を正しく見ることができ、それが正しい経営判断につながる。

店の立地が悪いと考えると、客が来ないのを立地のせいにしてしまう。売上が悪いのを景気やライバルのせいにするのも同じ発想だ。物事を正しく見ることができれば、立地が悪くても繁盛している店を探して視察してみようと考える。

また、なぜ自分はそう考えるのかを自問自答するようにする。こうすることで物事の本質に迫ることができる。その結果、考え方が自己中心的でなくなり、客観的に第三者の視点から物事を見ることができる。

正垣氏によれば「良いモノは売れる」というのは自己中心的な考え方で天動説と同じだ。良いモノが売れるのではなく、売れるモノが良いものなのだ。サイゼリヤの料理が美味いと思うと、客が来ないのは立地が悪い、味がわからない客が悪いとなって改善が進まない。

世の中は常に変化を続けている。だから常に新しい試みや実験が欠かせない。どこかの段階で満足してしまうと店はダメになる。だが新しい試みは失敗がつきものだ。正垣氏は失敗を失敗として捉えず、失敗は次の成功のためにあると言う。成功はその状態を変える理由がない一時的な状態に過ぎない。

だから売上が下がったり、客足が減った時は改善のための絶好の機会だ。改善に向けた仮説を立てて、実行して、結果を検証するというPDCA(PLAN・DO・CHECK・ACTION)を繰り返す。成功は試行錯誤の先にあるまぐれ当たりのようなものであり、成功から学ぶことはできず、失敗という経験から学ぶことができる。


部下の個性を見つけるなら、「個人特性分析」



経営判断はあくまで実験


こうした考え方を土台にして、正垣氏は理系出身者らしく、あらゆる経営判断は実験であるとし、実験結果の分析と検証を繰り返す。客数を重視し、客足が下がれば仮説に基づき対策を立て、実験を試みる。

正垣氏によれば安売りとお値打ちは違う。安売りは単に価格を安くするのに対し、お値打ちは質が価格を上回っている状態を指す。価格を安くするなら誰でもすぐにできるが、食材を良くしたり、量(ポーション)を増やすといった質を上げるには、頭を使って試行錯誤して考えることが求められる。経営者や店長の仕事はこの「考える事」である。



店の売上は立地、商品、店舗面積で決まるから、売上の責任を持つのは本部であるとして、店長には売上の目標は課さなかった。店長に売上目標を課せばセールを打って、客数が増えた結果、慣れないムダな作業が増えて利益が減ってしまう。多くの人は売上が増えれば利益も増えると思っているが、売上が増えなくても、ムダをなくすことで利益が増える会社を目指すべきと語る。

店長に求めたのは売上ではなく、店の人件費や水道光熱費といった経費をコントロールして、生産性をアップさせることだ。サイゼリヤでは創業以来、生産性の指標として 人時生産性 を最も重視してきた。人時生産性とは、店の1日の粗利益額を1日に投じた従業員の総労働時間で割って求めたものだ。飲食店の相場が1時間2,000円~3,000円なのに対して、サイゼリヤでは5,000円~6,000円を目標にした。

ムダな作業を見直して生産性を高め、売上が減っても利益が増える仕組みを考え出す。作業は改善するよりも、その作業自体を無くしてしまう方が改善は進む。作業の効率が悪いのは社員に問題があるのではなく、作業に問題がある。また仕事を分業で行う=役割分担を徹底することで効率化を推進した。


社員教育は経験重視


新規出店や改装などの大規模な設備投資を行う際は、投下資本利益率(ROI)を重視する。ROIは投下した資本に対する営業利益の割合を示す。仮に1000万円を使って新規に店を出し、その店の営業利益が300万円ならROIは30%になる。ROIが30%以上見込めないなら出店は見送った。

料理の良し悪しは食材で80%決まり、料理人の腕前は20%に過ぎない。だから正垣氏は創業当初から食材の仕入れには力を入れた。創業当初は午前4時から自ら市場に仕入れに出向き、食材を各店舗へ配達した。仕入れで最も大切な事は、安く買うことではなく、経営者がこの品質の食材は客に出せないという品質の下限を決めて、それを下回る食材は買わないことだ。

社員教育については社員の能力は70%が経験で決まり、知識が20%、経営哲学の理解が10%とし、経験を重視する。社員教育とは、社員に知識を与え、経験を積ませ、技術を身に付けてもらうものである。「技能」は特定の人にしか発揮できないが、「技術」は決まった手順に従えば、誰でも同じ結果が出せる。

上司は部下の出来ないことを叱るのではなく、なぜ出来ないのかを考え、出来ない作業を減らす。そして仕事と評価、教育、報酬が互いにリンクするようにしている。正しく評価されることで仕事は面白くなる。評価が上がれば報酬も上がるようにしなければならない。

サイゼリヤの経営理念は、人のため、正しく経営し、仲良くというものだ。人のためは客数で測り、正しい経営は仕事を標準化することで実現し、公正かつ客観的な人事評価で社員同士が仲良くできるような会社を目指した。経営理念も数字で見えるようにしているのも正垣氏らしい。


サイゼリヤ おいしいから売れるのではない 売れているのがおいしい料理だ

サイゼリヤ おいしいから売れるのではない 売れているのがおいしい料理だ



2026/06/14



事務所新聞のヘッドラインへ

オフィス ジャスト アイのトップページへ



↑ PAGE TOP