離職防止対策は、離職と人材のタイプに応じて行う
人手不足の影響により、かつてのようなブラック企業は減りつつある。口コミサイトやSNSでブラック企業という評判が立てば人が採用できなくなってしまうからだ。これは喜ばしい反面、会社がホワイト企業を意識し過ぎて、社員をお客様のように扱う「ゆるい会社」を増やしつつある。
その結果、若手・中堅社員が、「この会社では成長できないのではないか」とか、「自分を活かす機会が乏しい」といった理由で退職するケースが増えている。彼らに共通するのは、このままだと将来、自分は他社では通用しないかもしれない、そうなると、この会社でしか生きていけない、そんな不安や恐れに近い心情だ。こうした状況に会社はどのように対処すればよいのだろう?
産業医であり、経営学修士号(MBA)の資格を持つ 上村紀夫 氏は、現在、自社で起きている離職のメカニズムを理解した上で、離職のタイプと人材のタイプに応じた個別の対策を勧めている。
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離職の背景にあるマイナス感情と3つのタイプ
社員が離職する理由の奥底には マイナス感情 の蓄積がある。マイナス感情とは、不安や虚しさ、疲労、妬み、落ち込み、逃避、怒り、あきらめ、などのネガティブな心理だ。調査などで退職理由として挙げられる待遇や人間関係などは、マイナスの感情の蓄積の結果と言える。
このマイナス感情を発生させるのが、①働きがい、②働きやすさ、③心身のコンディションの3つで、上村氏はこれらを「個人活性化の3要素」と呼び、これらのバランスを整えることが重要であると指摘する。
なぜなら、この3要素は互いに影響し合いながら、マイナス感情を蓄積させていくからだ。例えば残業が多く「②働きやすさ」が損なわると、「③心身のコンディション」が悪化し、「①働きがい」にもマイナスの影響を及ぼす。自社では、3要素のうち最初にどれが生じ、どのように波及していくのかというメカニズムを把握する。この流れを理解しないまま、離職を防ぐためプラスの感情だけを向上させようとする対策では十分な効果は見込めない。
個人活性化の3要素が悪化することで生じる離職のタイプは、以下の3つに分類される。
- 主として①の働きがいが損なわれることで生じる「積極的離職」
- ②の働きやすさが失われることによる「消極的離職」
- ③の心身のコンディションが悪化することが原因の「離脱」

人材タイプを分ける「14の労働価値」
次に人材のタイプを見てみよう。人材のタイプは、その人が持つ固有の労働価値と、社内における位置づけという2つの要素で区分けできる。
労働価値とは、その人が仕事をする上で会社に期待するもの、働く理由、仕事で大切にしたい事だ。労働価値の分類の例としては、経営学者であり心理学者でもあるドナルド・スーパー(Donald.E.Super)による「14の労働価値」がある。
- 能力の活用(Ability Utilization):自分の持つ能力やスキルを発揮できること
- 達成(Achievement):良い成果を出して手応えや達成感を得られること
- 美的追求(Aesthetic / Esthetics):美しいものを生み出したり関わったりできること
- 愛他性・利他性(Altruism):他人の役に立ったり社会に貢献したりできること
- 自律性(Independence / Autonomy):自分の裁量で仕事の進め方を決められること
- 創造性(Creativity):新しいアイデアや製品を創り出せること
- 経済的報酬(Economic Return):十分な給与や高収入、経済的安定が得られること
- ライフスタイル(Way of Life / Lifestyle):私生活と仕事のバランスを保てること
- 身体的活動(Physical Activity):デスクワークだけでなく、体を動かす仕事であること
- 社会的評価(Prestige):人から認められ、ステータスや名声が得られること
- 冒険性・危険性(Challenge / Adventure):ワクワクする興奮や、リスクのある挑戦ができること
- 社会的交流性:(Associates / Co-workers)多くの人と関わり、良好な人間関係を築けること
- 多様性(Variety):単調ではなく、変化に富んだ様々な業務を行えること
- 職場環境(Surroundings / Workplace):職場の設備や人間関係、風土が心地よいこと
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人材タイプに応じた効果的な離職対策
一方、社内における位置づけとしては、特徴・特性・属性(役職、勤続年数など)によって、いくつかのグループに分類する方法がある。一例を挙げると、成績優秀な中核人材、次世代の中核人材候補、中途採用も含めた入社間もない立ち上がり人材、良くも悪くもない普通人材、会社にぶら下がる人材、といった分類に分ける方法がある。
離職のタイプと人材のタイプを整理した後、それぞれのタイプに応じた離職対策をまとめると、次のようになる。
中核人材
- 保有する労働価値:人によって千差万別
- 積極的な対策:人により異なるため対策困難
- 消極的な離職対策:不満を抱いている要因の特定と除去
- 離脱対策:健康障害の原因に応じた対策
次世代の中核人材候補
- 保有する労働価値:能力活用、達成、自律性
- 積極的な対策:やりがいを上げるための機会創出
- 消極的な離職対策:業務集中や評価の不満といった従業員満足度からのアプローチ
- 離脱対策:メンタルヘルスケア
立ち上がり人材
- 保有する労働価値:環境、ライフスタイル、冒険性
- 積極的な対策:見本となる次期中核人材を複数人作る
- 消極的な離職対策:業務負荷の軽減、人間関係の改善
- 離脱対策:採用時のストレス抵抗力チェック、自社との価値観の適合度確認

全員一律は逆効果? 個々の価値観に向き合う離職予防
こうして見ると、離職対策はそれぞれのタイプに応じて行うことが大切なことがわかる。多くの人事労務管理施策は全社一律になってしまうが、すべての人材に効果的な離職対策を講じようとするのは現実的ではない。異なる労働価値を持つ全員を同時に定着させるような対策は不可能であり、時に望ましくない。
例えば、上記で記した通り「中核人材」の労働価値は人により千差万別であり、会社としての離職予防対策を講じるのが難しい。彼らは自らの労働価値に沿った生き方を選ぶ人種であり、対策を講じたからと言って、今の組織に留まり続ける蓋然性は低い。
また「ぶら下がり人材」などがいれば、積極的な離職予防対策を講じるのではなく、むしろ穏やかな退職を促進することが対策になるケースもある。「普通の人材」への対策としては、職場環境が原因で普通人材に留まっている人を見逃さないようにする。
上村氏によれば、社内にマイナス感情が生じる原因は無関心と想像力の欠如だ。経営陣や管理職が社員のマイナス感情に関心を持たず、どんな対策が効果があるのかをイメージできずにいると、社内にはマイナスの感情が蓄積されてゆく。離職予防対策には「これさえやればよい」といった魔法の杖はないと言えるだろう。






