モチベーションは動機づけと訳される。
そして、動機づけは外発的動機づけと内発的動機づけに区分けされることがある。
外発的動機づけは外からの刺激や誘因を用い、行動を起こさせたり、その行動を持続させようとする。ワークモチベーションの場合、目標を達成したら賞与をはずむ、成績が優秀なら昇進させるといった事例は、外発的動機づけを利用したものと言える。
外発的動機づけは即効性はあるが長続きがしない。人間は外からの刺激に慣れが生じるため、外発的動機づけを常に働かせるには、刺激のレベルを上げ続けるか、別の種類の誘因を与える必要がある。
例えば、営業部門に成果に応じて支払う報奨金制度を取り入れると、導入した当初は社員の目の色が変わり、それまで以上に数字を意識するようになる。しかし、数年も経つとかつての熱気はすっかり冷めて、以前と何ら変わらない状態に戻ってしまい、人件費だけが高騰したという話は枚挙に暇がない。
これに対し内発的動機づけが働いていると、人は自分の心の奥底の内なる声に従い、自らの価値観や嗜好に沿った行動をする。自らの意思で主体的・自発的に目標を立て行動を起こす。その行動をとること自体が目的となっている。それは時に使命感や倫理観・道徳観に従った行動とみなされる。
普段、朝はなかなか起きられないが、休日はすぐに目が覚める、仕事では時間が長く感じられるが、趣味に没頭していると時間を忘れる、といったケースでは内発的動機づけが強く働いている。内発的動機づけは外発的動機づけのように外から刺激を補う必要はなく、自らの心の状態が行動のエネルギー源になっている。
企業が外発的動機づけに用いる刺激は経済的な報酬であることが多く、これを長期間に渡り増やし続けることは現実的ではない。また現在の日本のように物質的に一定の充足感のある社会では、経済的報酬だけで人を動かすことは困難になっている。企業がワークモチベーションを考える際は、内発的動機づけに焦点を当てることが望ましい。
内発的動機づけの働き
内発的動機づけを高めるための方策については
エドワード・デシ(Edward Deci)が有益な研究を数多く行っている。デシは内発的動機を高める要因として、@有能感 A自律性 B他者との関係性を挙げている。
また、内発的動機づけの要因として仕事そのものをとらえ、どのような職務がモチベーションを向上させるのかについてハックマンとオルダムが
職務設計理論を唱えている。
この説によれば、モチベーションが高まる仕事には次の5つの要素が存するとされる。
- 技能の多様性
- 職務の完結性
- 職務の重要性
- 自律性
- フィードバック
デシとハックマン=オルダムのいずれの説にも共通して
自律性が含まれている。ここから内発的動機づけには自律性が大きく関与していることがわかる。なお、自律は Autonomy の訳だが、自立としても意味するところに大きな違いはない。
職務設計理論の詳しい内容はこちら
自律は内発的動機づけによりモチベーションを向上させるだけでなく、経営上の観点からも重要な意味を持つ。
現在は付加価値を生む現場の最前線では専門化が進み、変化の速度が早くなっている。このため、逐一上司に報告を上げ、その指示を待っているだけでは最適な行動が取れなくなっている。上司や会社の指示に従うだけではその判断は遅く、狭く、浅いものに終始してしまう。
現場にいる一人ひとりが自ら仮説を立て、それを実行し、検証した上で修正するというセルフ・マネジメントが求められている。そうした自発的・主体的な行動を起こすためには高い自律性を必要とする。
また、自律は退職を防止するリテンション対策としても機能する。
社員の自律や自立を促せば、それだけ退職者が増えるだけではないかと懸念する向きもある。だが、実際は逆で、自律・自立を阻害すれば有能な社員、見込みのある人材ほど、やりたいことができないことに不満を募らせ退職する。企業とすれば退職しては困る人が辞めて、会社にパラサイト(寄生)するような人材だけが残ってしまうことになる。
やりたいことができるという自律・自立できる環境にあればあるほど、社員がその会社を辞める必然性は低くなる。
自律・自立を促す方策とは
では、社内の人材に自律・自立を醸成し、それを定着させるにはどうすればよいのだろう。
一つは、過度に細かい指示を出したり、監視・監督を強化して社員や部下の行動に関与・介入するマイクロ・マネジメントを排することだ。そしてマイクロ・マネジメントを排除していくと、裁量の余地が広がることになるので、職務権限の委譲も図るようにする。
権限の委譲は個人に対してだけでなく、課や係、チームといった組織も対象となる。現場により近い個人や小集団に権限を委譲することで、素早い意思決定が可能になり、創意工夫が期待できる。
自主管理チームや小集団活動への経済的・精神的支援により経営への参画意識を高める方法も効果的だ。権限の委譲は相手に対する信頼の証となり、自らの役割を認識させることになり、責任感を生じさせる。
自律・自立を促すことは人材を育成することでもあり、その観点に立てば、過度の効率優先主義を見直すことも重要になる。
昨今は仕事のできる人に業務が集中する傾向がある。経営者や管理職が重要度の高い、あるいは新規のプロジェクトの担当を決める際などは、ついつい実績や経験を優先してしまう。人材を育成し、自律を促すためには、あえて不慣れで経験が不足している社員に任せて、それを見守り、フォローする姿勢が必要となる。
しかし、目標管理制度などが導入されていると、管理職はどうしても目先の効率の良し悪しに目を奪われる。そこには大事な仕事を不慣れな部下に委ねて、自らが責任を問われることを恐れる保身・自己防衛意識も働いている。
かつて日本式経営がもてはやされたころは、欧米企業の経営者は短期的視点にとらわれすぎで、もっと長期的な視点に立って経営に当たるべきだと語られた。
だがいつの間にか日本の企業も、無駄を排除し、短期的な効率化を推進することがマネジメントであるという認識が蔓延し、自律を促し、人材を育成する機能が低下している。人材を育成することは失敗を許容し、非効率を容認することであり、成果が出るまで長期間を要する投資でもある。当たり前の話だが、投資を行うためには利益を確保することが欠かせない。
長年、優良企業であり続けるアメリカのスリーエムには、「船長は血が出るほど舌を噛む」という言い伝えがある。新米の船員が船を着岸させる時、船長はドキドキ、ハラハラして、思わず指示を出したり、自分が操舵したい衝動に駆られる。だが、ここで介入すると人材はいつまで経っても育たない。自律・自立という巣立ちを促すには、血が出るくらい舌を噛んで我慢する忍耐や覚悟が求められる。
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