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ワークモチベーションの着眼点 人事評価編HEADLINE


モチベーションを下げてしまう人事評価

人は誰でも自分の仕事や能力を「正しく」評価されればモチベーションは上がる。社員の仕事ぶりや能力を評価する人事の仕組みの一つに人事評価がある。その意味で人事評価はモチベーションを向上させる人事制度と言える。

ただし「正しく」という条件を満たすことはとても難しい。正当に評価されないと社員のモチベーションは急激に低下する。

現在の人事評価にはモチベーションを下げてしまう構造的な要因がある。その一つは人事評価が長年に渡り人事部門の独占的な支配下に置かれ、独自に進化・発展を遂げ、経営理念や経営ビジョンとの有機的な繋がりを失っていることだ。

たとえば、経営者は長期的なプロセスや積極果敢なチャレンジを重視する方針であっても、人事評価では短期的な成果や結果だけが評価の対象になっていることがある。経営理念と人事評価のモノサシが違っていると、社員にとっては「ウチの会社は言っている事とやっている事が違う」と映り、モチベーションは低下する。

経営陣が経営理念との繋がりを持たせようとしても、現在の評価制度の設計は緻密化・精密化した上、他の制度との連携が進んでいるため、専門の人事担当者や制度を設計した外部のコンサルタントでないと、おいそれと手を出せなくなっている。

経営者が「ウチの人事評価はどこかおかしい」と思っても、具体的にどこをどう直せばよいかが指摘ができない。そのため人事部長が納得する範囲と深さでしか制度の変更が行なわれない、あるいは自社を担当するコンサルタントが思考するレベルでしか経営理念との整合性が図れなくなっている。



処遇機能の低下

人事評価の機能の一つに処遇がある。仕事内容や働きぶりを評価して給料やポストで報いる。

モチベーションの理論の一つにブルームやローラーが唱えた期待理論がある。それによると、モチベーションを向上させるためには次の3つの要因が関係する。

  1. 報酬の魅力度
  2. 行動が成果につながる見通しの確かさ
  3. 報酬を手にすると思える確率

そして、モチベーションの高さはこの3つの要因を掛け合わせた大きさにより決まるとされる。






これを人事評価に当てはめると、@は給料・ポストの魅力度 Aは人事評価の設計と運用の適切度 Bは社員が望むものを手にする可能性、となる。

現在の日本の企業では、この@の報酬の魅力度が著しく低下している。

かつてのような高度経済成長の時代であれば給料が増えることで欲しいモノが手に入り、豊かな生活ができるようになった。ところが現在の日本は経済水準も上がり、社会保障は整備され、日々の暮らしにはそれなりの満足感・安心感がある。人々はモノの豊かさが必ずしも心の豊かさに繋がるわけではないことを実感している。物質的な豊かさだけを求めて働く人は減りつつある。

その結果、生活に困窮しない程度の給料で満足とか、管理職は責任や気苦労が増えるだけで割が合わない、自分の専門性を活かせれば給料やポストは気にしない、このように考える社員が増えている。

こうして企業が提供する報酬の魅力が低下し、人事評価はモチベーションを高めることができなくなっている。



人材育成機能の不全

人事評価には処遇以外にも人材育成という機能もある。

人事評価で人材育成を図る際、その目安となる人物像・人材像は資格等級基準書や職能資格定義書に記述されている。だが、この基準書や定義書に記述されている内容が現実と大きく乖離している。

90年代初頭の不動産バブルの崩壊前までは、社内における自分の10年後は10年先輩の姿を見るとおよそ想像することができた。人材の将来像は現時点から一直線に伸びた先にあり、予測可能性が極めて高かった。

ところが現在は10年先が見通せるような仕事や職務は外部に委託されたり、派遣社員によって半外注化されるようになっている。正社員の仕事は新規性の高い仕事であったり、創造力が求められる仕事が増えている。

そこでは何が正解なのかという答えは見当たらず、手本となるような前任者や先輩もいない。将来はどういった能力、スキルが役に立つか事前に予測することができなくなっている。このため社員から見れば、資格等級基準書や職能資格定義書に示されている人物像が目指すべきゴールや目標になっていない。


そして、人事評価は常に過去を振り返っての評価であり、会社が決めた項目についてだけ評価される。将来の新しい仕事や職務に対しどのような能力が必要になるのかを教えてくれない。

将来は過去の延長線上にあるという静的で連続的に変化する経営環境であれば、人事評価は人材育成のための有効な手段となったが、経営環境が動的に、しかも不連続に変化する環境では過去の実績が必ずしも将来の成果を約束するとは限らない。

人材の潜在的な能力を評価し、将来の可能性を明らかにするという点では人事評価よりも人材アセスメントの方が効果がある。人材アセスメントは当事務所でも手がけているので、詳細は個人特性分析のページをご覧いただきたい。



【人事評価と人材アセスメントの比較】





風穴を開ける試み

このように現在の社会情勢、経営環境の変化により人事評価は社員のモチベーションを向上させにくくなっている。

こうした状況を変えるためには、まず報酬のあり方を見直してはどうだろう。これまでのように給料やポストといった金銭的報酬だけでなく、本人にとってやりがいのある仕事を報酬にする。経団連会長だった土光敏夫氏が語っていたように「仕事の報酬は仕事」にする。

人事評価による報酬としてやりたい仕事が自由にできるようにする。どんな仕事をするのかは経営者と直接話し合い、目標を決める。そして評価は自らが経営者にプレゼンすることによって得る。これにより評価は下されるものという受身的なものから、自分で獲得するものへ転換する。

経営者自らがプレゼンを受けて評価をするから人事評価と経営理念にズレが生じることはないし、相性の悪い上司の下でモチベーションを低下させている社員を解放することができる。

この際、たとえ結果が芳しくなくてもマイナスの評価にしないようにする。やりたい目標を自分で定め、その評価は自らで得るという選択をした社員は、結果の如何を問わず不利益を被ることがないことを担保する。


人事評価は日本と欧米とではその設計思想に根本的な相違がある。日本企業の人事評価が総合的な人物評価なのに対し、欧米企業は仕事の重要性や難易度、影響度などを評価する。このため、欧米から日本に適した人事評価がもたらされることはあまり期待できない。

人事評価がモチベーションの向上に寄与するためには、日本に合った新しい風や制度に柔軟性をもたらす “揺らぎ” が必要なのではないだろうか。



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