(Peter Drucker)でさえ、「マネジメントという言葉は難しい言葉である」と語っています。そして、「マネジメントは完全にアメリカ英語であり、イギリス英語も含め、他のいかなる外国語にも翻訳できない」と述べています。
実態がつかみづらく、扱いにくいマネジメントですが、マネージャーにとってマネジメントは欠かせない存在です。そこで、このセクションでは、マネジメントについて体系的に取り上げて解説を試みました。
このページでは、マネジメントやマネージャーの定義、マネジメントという機能の種類、マネージャーの役割、マネージャーに求められる能力・適性といったマネジメントの概観を取り上げています。
すでにマネージャーの立場にある方は、マネジメントという仕事の全体像を確認することで、自らのマネジメントの抜けやモレに気づくことにより改善を図ることができます。
新しくマネージャーに就任された人は、あらかじめマネジメントについて体系的に把握をしておけば、実体験から効率的にマネジメントを習得することができます。
また、昨今は「ジョブ型雇用」の導入機運の高まりに伴い、管理職階層の職務であるマネジメントを職務記述書(ジョブ・ディスクリプション)に書き記すことが課題になりつつあります。マネジメントについて俯瞰してみることは、マネジメントの内容を洗い出す作業の上でも役立つでしょう。
ピーター・ドラッカーはマネジメントの役割として、次の3つを挙げています。
- 組織に特有の目的とミッションを果たす
- 仕事を生産的にして、働く人に成果をあげさせる
- 社会に与えるインパクトを処理するとともに、社会的な貢献を行う
そして、これら3つ役割はそれぞれ特定のスキルやツール、条件を必要としており、それらを統合する方法や仕事がマネジメントであると述べています。
マネジメントを担う立場の人からすると、マネジメントとは、社内・社外の関係者を巻き込み、彼らと共に働きながら、組織内外の物事や課題を「効率的」かつ「有効的」に遂行する活動プロセスと言えるでしょう。
「効率的」とは仕事を正確・適切に処理し、最少のインプットで最大のアウトプットを引き出すことです。仕事の投資効率を高めることと言え、仕事が行われる手段に関わっています。「有効的」とは、組織が目標を達成できるように、なすべきことをなすことで、結果に関わってくる話です。
マネージャーは、その活動と機能を通じて、「効率性」と「有効性」を同時に実現することが求められます。効率性と有効性は時に相反する場合もあります。例えば多くの営業担当者を採用すれば、売上は上がるかもしれません。しかし効率性を無視して高い人件費をかけ、有効性である売上目標を達成しても意味はありません。「効率性」と「有効性」は高いレベルで両立させる必要があります。
マネージャーとはどのような立場の人か
マネージャーとは、一般社員に対して仕事を監督する、あるいは活動の指示をする立場にある人のことです。一般社員とは組織において自分以外の人の仕事について監督責任を負わない人たちです。マネージャーが属する組織の階層によってはマネージャーがプレイング・マネージャーとして、一般社員と同じ仕事を担うこともあります。
組織におけるマネージャーの階層は3つに区分けされます。最上位に位置するのが役員や事業部の責任者といったトップマネージャー、次いでトップマネージャーと一般社員との間に位置する部長や課長などのミドルマネージャー(管理職)、そして日々の仕事の作業を指示する第一線の現場マネ−ジャーです。
トップマネージャーは組織の方向性について決定を下し、社員が従うべき方針を定め、それらについて責任を負います。ミドルマネージャーは、トップマネージャーが設定した目標の達成に向けて、具体的な打ち手(戦略)をまとめ、第一線の現場マネージャーが実行できるようにします。現場マネージャーはミドルマネージャーが描いた打ち手に沿って、一般社員・従業員の日々の仕事について指示をします。
日本の会社は仕事や役割を中心に組織が作られるのでなく、人を中心にして組織運営がなされるという特徴があります。このため3つの階層の区分けが曖昧になりがちです。また階層ごとの役割が明確でないことも珍しくありません。諸外国の会社が状況の変化に応じて頻繁に組織のあり方(組織の構造や設計)を見直すのに対し、日本の会社では人の役割や責任範囲を柔軟に変化させて状況変化に対応します。このため日本の会社は諸外国に比べ、組織の仕事全体においてマネージャー個人の力量が大きく問われます。
マネジメントの機能とマネージャーの役割の比較
マネジメントの機能を最初に明らかにしたのは、20世紀の初頭の
アンリ・ファヨール(Henri Fayol)という企業経営者と言われています。彼はマネージャーの行動として「計画」「組織化」「リーダーシップの発揮」「調整」「コントロール」の5つを指摘しました。
これを受ける形で現在、マネジメントは、@計画化 A組織化 Bリーダーシップの発揮 Cコントロール、という4つの機能に集約されています。
<計画化>
達成すべき目標を定め、それを成し遂げるための打ち手(戦略)を決定し、関係者や関係部署を協調させる手筈を整える
<組織化>
目標を達成するための仕事を定め、課題や作業を人や部署に振り分け、スケジュールを調整する。どの課題はどの部署が担うのか、どの作業は誰がこなし、どのように仕事を進行させるのか、必要になる報告系統をどうするか、どの過程で誰が何を決定するかなどを決定する
<リーダーシップの発揮>
リーダーシップについては、
こちらのページで詳しく述べています
<コントロール>(統制・制御・介入)
仕事や課題、作業の進捗状況を確認し、活動が目標の達成に向かっていなければ軌道修正のために介入する。必要に応じて計画の修正・見直しを行う
次にマネージャーの「役割」に注目してマネジメントとは何かを探ってみます。役割を探ることは、自ずとマネージャーの行動や振る舞いを調べることになります。
1960年代、経営学者の
ヘンリー・ミンツバーグ(Henry Mintzberg)は経営者を対象に実際の行動を観察する試みに着手します。その後、観察対象を拡大し、1970年代には観察された結果を基にマネージャーの役割を以下のようにまとめています。
■対人関係における役割
@看板的役割
Aリーダー的役割
B組織内外の連絡的役割
■情報についての役割
C管理・監督者
D配布者
Eスポークスマン
■意思決定に関わる役割
F起業家
G妨害対処者
H資源配分者
I交渉・折衝係
2000年代に入ると、ミンツバーグはマネージャーの役割は他者・他部署・関係者に影響を与えることであるとし、マネジメントの手法を次の3つに分類しています。
1.契約交渉やプロジェクトへの介入など、自ら乗り出して直接的に管理する
2.モチベーションやチームワークを向上させたり、組織文化を醸成するなどを通して、部下や関係者の行動を管理する
3.予算管理や目標管理、権限委譲といった情報管理を通じて、部下や関係者の行動を促す
またミンツバーグによれば、マネジメントとはアート(芸術)とクラフト(職人芸)、そしてサイエンス(科学)という3つの要素が互いに関わり合う中で行われる実践の行為であり、主として経験を通じて習得されます。従ってマネジメントはマネージャーが担う個別具体的な仕事や課題、プロジェクトなどの出来事やその時々の状況と切り離すことができません。
マネジメントとは普遍的というよりも、個別具体性が強く、一般的な原理原則が通用しにくいものであると言えそうです。
マネージャーに求められる能力・適性
ロバート・カッツ(Robert Katz)らによる調査・研究が良く知られています。マネージャーに求められる能力として以下の4つが挙げられています。
- 概念化スキル:複雑な状況を分析し、判断する能力
- 対人スキル:他者と協調して仕事ができる能力
- 技術スキル:仕事にまつわる各分野の専門的知識
- 政治スキル:人脈による影響力行使を可能にする能力
Tett,Guterman,Bleier,Murphyの共同研究では、マネージャーの能力として次の9つを明らかにしています。
- 意思決定や目標設定、管理監督といった伝統的な役割を果たすこと
- 仕事の方向づけを図ること
- 自らの行動の原理原則を明らかにすること
- 人間として信頼されること
- 物事に対し柔軟であること
- 感情をコントロールできること
- コミュニケーション能力があること
- 自己向上を図ると同時に、部下も育成できること
- 業務に対する感覚の鋭さがあること
Dierdorff,Rubin,Morgesonらによる8600人のマネージャーの仕事を対象にした調査では、マネージャーの能力として、@概念化能力、A対人関係能力、B技術力・業務運営管理能力の3つが明らかになっています。
【ご案内】当事務所では質問票に回答することにより、マネジメント力を診断・分析する
マネジメント診断 を行っています。
【参考資料】
国家公務員のためのマネジメントテキスト(内閣官房内閣人事局制作・PDF 86ページ)。民間企業でも使えます。
第1章 職場環境・職員意識の変化とマネジメントの必要性
第2章 マネジメントの基盤を作るコミュニケーション
第3章 業務をマネジメントする
第4章 人材をマネジメントする
●基礎からわかるマネジメント・目次
第1章 基礎からわかるマネジメント (このページ)
第2章
意思決定
第3章 マネジメントの機能
計画・組織化
第4章 マネジメントの機能
リーダーシップ・コントロール
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