マネージャーがリーダーシップを発揮する対象は、個々のメンバーに対する場合と集団全体に渡る場合に分かれます。そのためマネージャーは、①個人の行動に関する理解と、②集団における人間の行動についての理解が必要です。
このページでは、最初に個人の行動理解について触れ、その後、集団における人間の行動について見ていくことにします。
第4章 マネジメントの機能 リーダーシップ・コントロール (このページ)
個人の行動の理解のためには、部下の①態度、②性格、③認知、④行動を習慣づける学習の4つについて知る必要があります。以下ではこの4つについての概要を取り上げます。なお、これらは人事・人材とは異なる専門分野に関する事項であるため、詳しい内容は、その他の文献やウェブサイトをご参照ください。
態度
態度は行動に影響を及ぼすため、マネージャーは部下の仕事に対する態度に関心を払う必要があります。仕事に対する態度は、次の4つによって決まります。
- 仕事に対して抱いている満足度
- 自分の仕事について感じている重要性
- 組織に対して感じる一体感や忠誠心(ロイヤリティ)
- 仕事や組織に抱いている強い結びつき(エンゲージメント)
従って、マネージャーが部下に対してリーダーシップを発揮するためには、上記の要素の改善を図る必要があります。
性格
性格も行動に影響を与えるため、マネージャーは部下の性格について理解する必要があります。人間の性格を分類する手法としては、次のようなものがあります。
1.
MBTI(Myers–Briggs Type Indicator / マイヤーズ・ブリックス・タイプ指標)
4つの指標(外向的 or 内向的/感覚的 or 直感的/思考的 or 感情的/判断的態度 or 知覚的態度)による組み合わせによって、性格を16通りに分類する。
本を読む時間のない方に向けて、MBTIを用いた
タイプ別のつき合い方・判別シートを無料でご提供しています。
2.ビッグファイブ
外向性、協調性、誠実性、情緒的安定性、知的好奇心という5つの指標によって性格を分類する。
3.EQ(心の知能指数)
EQはダニエル・ゴールマン(Daniel Goleman)の著作によって、一躍知られることになった研究テーマです。自己や他者の心の動きを感じ取る能力のことで、次の5つで構成されます。
- 自己認識力 (自分の心の動きを感じ取る力)
- セルフ・マネジメント (自分の感情や欲求をコントロールする)
- 自己の動機づけ (挫折や失敗にくじけない)
- 共感力 (相手の心の動きを察知する)
- 社会的なスキル (相手の心の動きに対応できる)
性格と職種とのマッチングについては、ホランド(John L.Holland)の研究がよく知られています。ホランドは性格を6つのタイプ(現実的・研究的・社会的・慣習的・企業的・現実的)に分け、それぞれに適した職種を示しています。
なお、当事務所では質問票に回答することで性格を明らかにする
個人特性分析や
採用適性検査を行っています。性格以外にも、社会性(職務遂行能力の基礎となる要因)、意欲・ヤル気(モチベーション)も分析します。上記のホランドによる性格と職種の関係は、「関心事・興味領域」として表示されます。
認知
認知とは人間が捉えた感覚的な印象について、解釈を施し、意味を与えるプロセスのことです。人間は誰しも現実という事実を見ているつもりですが、実際は認知という解釈を施したものを現実として受け止めているに過ぎません。マネージャーは認知の仕組みを知ることで、部下に対してリーダーシップを発揮できるようになると同時に、自らの行動を省みることもできます。
人間は相手の行動について、なぜそうした行動を取るのかという推論を行います。推論から人間の認知の仕組みを説明するものとして
帰属理論 があります。帰属理論によれば、人は物事が起こった原因を内的要因によるものなのか、それとも外的要因のせいなのかを特定しようとします。
マネージャーも推論によって部下の行動がその部下に固有の内的な要因によって引き起こされたのか、それとも制御できない外的な要因によるものかを見極めようとします。一例を挙げると、日頃から仕事の遅れ気味な部下がいたとします。ある日、この部下が担当する仕事が納期に間に合わないことが明らかになると、その原因を本人の仕事の進め方という内部要因に帰属させます。一方、普段は仕事の遅れとは縁のない部下が納期遅れを生じさせると、何か不可抗力なトラブルがあったのではないかという外部要因に帰属させてしまいます。
この例のように、人間には一定程度の帰属の誤りやバイアス(歪み)が避けられません。帰属によるバイアスには、①外的要因の影響を低く見積もり、内的要因を高く見積るという「根本的な帰属の誤り」と、②自分の成功は「内的要因」によるものと解釈し、失敗は外的要因に帰属させる「自己奉仕バイアス」があります。
またマネージャーは素早く判断し行動することが求められるため、複雑な認知プロセスを省略する「ショートカット」を行います。主なショートカットには、以下のようなものがあります。
- 自らの興味や背景、経験などによって情報を選別して推論する「選択的認知」
- 自分と部下は似ていると解釈する「想定類似性」
- 部下の個人的な属性を基に判断する「ステレオタイプ化」
- 印象的な特徴によって部下を判断する「ハロー効果」
こうした「ショートカット」は採用面接で応募者を判断する場でも、しばしば用いられます。
部下はどのように学習するのか
マネージャーは部下の行動を理解したり予測をするため、そして行動に影響を与えるために、人間が行動を習慣にする学習の仕組みについて知っておくことが望まれます。
人の行動がどういった理由に基づき、どのような仕組みで起こるのかについては2つの代表的な理論があります。一つは人は褒美といった「正の強化」と罰である「負の強化」により、環境に適応するような行動を自発的に学習するという
オペラント条件付け です。もう一つは、人は他者の観察を通じて学ぶという
社会的学習理論 です。
マネージャーは部下に対して期待を表明したり、激励したり、支援を表明するといった「正の強化」を図りながら、同時に失望を伝えたり、マイナスの評価をするといった「負の強化」を行うすることで、段階的に部下の行動の形成を促します。そして、部下は上司の日頃の発言や振る舞いを観察することでも学習していきます。マネージャーと部下は親と子、あるいは師匠と弟子の関係に近いとも言え、部下はマネージャーの背中を見ながら行動を学習します。
リーダーシップの発揮・集団
マネージャーがリーダーシップを発揮し業務をマネジメントするにあたっては、集団における人間の行動についても理解が求められます。チームやグループでの行動を左右する要因としては次のようなものがあります。
- 期待役割
- 行動規範
- 同調圧力
- 地位・ポジション
- 団結力
- グループの人数
組織のメンバーは組織内における自分の ①「期待役割」を見極め、その期待に応えようとします。そして、どの組織にも特有の ②「行動規範」があり、メンバーにはその規範に従うことを求める
③「同調圧力」が働きます。
期待役割や行動規範、同調圧力が生じる背後には組織の階層(ヒエラルキー)があります。階層(ヒエラルキー)にはピラミッド型の上下階層だけでなく、年齢や教育水準、技能レベル、経験の度合いといった非公式な特性による構成もあります。これらの要素の度合いと組み合わせによって組織の
④「地位・ポジション」と ⑤「団結力」が決まります。
そして ⑥「グループの人数」によってもメンバーの行動は左右されます。メンバーの数が増えるに連れ、各人の責任の度合いも薄まり、各自の貢献度は低下していきます。結果として『社会的怠慢』が生じ、組織内での『ただ乗り』(フリーライダー)が生まれやすくなります。
チームの有効性を高める方法
チームの有効性が高いとは、チームの生産性が高く、高い業績評価を得ており、メンバーの総合的な満足度が高い、そのような状態にある時を指します。多くの研究からチームの生産性に影響を与える要因が明らかになっています。
その要因は次の4つに区分けされます。①背景要因 ②チームの構成要素 ③業務プロセスの設計 ④仕事の取り組み方。それぞれについて詳しく見ていきます。
①チームが有効性を発揮する背景要因
- 適切な資源:適時提供される情報、設備、激励、人材の配置、一般的な事務作業への支援など
- チーム内のリーダーシップとそれが機能する組織構造(組織構造についてはこちら)
- メンバー同士やメンバーとリーダーとの相互信頼
- 適切な業績評価とそれに基づく報酬制度
②チームが有効性を発揮するために必要な構成要素
以下の6つの要素があります。
ⅰ メンバーの性格
性格を分類した「ビッグ5モデル」では、チームの有効性に関係しているのは、誠実性、知的好奇心、協調性の3因子です。
ⅱ チームの規模
必要な能力を有するメンバーができる限り少ない人数であることが理想とされます。一般的には10人以下であること。
ⅲ メンバーの知識、技能、能力
チームが有効性を発揮するには、A:技術的専門知識、B:問題解決・意思決定能力、C:対人関係能力という3つの知識・技能・能力を持つメンバーの存在が必要とされます。
ⅳ メンバーの柔軟性
一人が複数の能力や役割を兼ね備える、必要に応じてメンバーの入れ替わりができるとチームの有効性は高まります。
ⅴ メンバーの嗜好
チームで仕事をすることを厭わない人でチームが構成されているか否か。
ⅵ 役割
チームが有効性を発揮するために、メンバーには以下の9つの役割が求められます。
- 創造的なアイデアを引き出す
- 引き出されたアイデアを支持する
- 選択肢について見識ある分析をする
- 組織をまとめる
- 方向性を示して遂行する
- 詳細を調べルールを決める
- 外部との対立に対処する
- より多くの情報を探すように働きかける
- メンバー同士を調整し結びつける
多くのチームでは一人が複数の役割を担います。9つの役割が高いレベルで備わったチームほど高い業績を挙げることがわかっています。
③チームが有効性を発揮するために求められる業務プロセス
- チームでの仕事についてメンバーに自主裁量権がある
- メンバーが多様な技能を発揮できる
- 独自性のある製品・サービスを提供できる
- チームの内外に大きな影響を与える
④チームが有効性を発揮するために求められる仕事の取り組み方
- メンバー間に共通の目的と計画がある
- 計画の進捗度を測定するために具体的なチームの目標がある
- メンバー間に信頼感があり、チームとしての効果を発揮できる
- 適度な対立・衝突によって、メンバーの間に生じるタダ乗りという「社会的怠慢」を最小限に抑える力が働いている
マネージャーが集団でのリーダーシップを有効にするには、上記の①の「背景要因」を整え、②の6つの要素をメンバーに求め、③の「業務プロセス」に沿って業務を遂行しつt、④のような状況をチーム内に生じさせるような方策を検討すればよいことになります。
マネジメントの機能<4> コントロール
コントロールとは業務が計画通りに進み、目標が達成できるように進捗管理を行い、計画からのズレや遅れが生じている場合は修正を施すというマネジメントのことです。
当初の計画通りに業務が進み、目標が達成されるのは滅多にありません。そのため、マネージャーがコントールというマネジメント機能を発揮することにより、最終的な目標の達成が可能になります。場合によっては当初の計画自体を修正するというコントーロールを行うこともあります。
コントロールというマネジメントが機能してこそ、組織の目標達成につながる業務の遂行が可能になります。そしてコントロール・システムの有効性は目標達成にどれだけ貢献したかで評価されます。
コントロールのプロセスは、①実績の測定 ②実績と基準(マイルストーン)との比較 ③軌道修正や基準の修正 という3つで構成されます。
①の実績の測定の方法には、マネージャー自らによる直接的な観察、経営情報システムが提供する数値データ、人間による口頭での報告、文書による報告があります。それぞれに長所と短所を持ち合わせているため、これらすべてを活用することで精度の高い測定が可能になります。
いずれの方法にも、何らかのフィルターや加工が施されています。自ら観察した結果でも、
認知のバイアスがかかり、見たいものだけを見て、見たくないものは見えなくなってしまう恐れがあります。情報システムがもたらす数値データも、人の手により何らかのルールで加工や選別、区分けが施されいるため、フィルターがかかることが避けられません。
測定に際しては対象の選定が重要になります。選定の対象を誤ると目標の達成がおぼつかなくなります。また選定する対象によって部下の行動も影響を受けます。量的な測定が難しい定性的な指標については極力、客観的に測定できる方法を検討すべきです。
②の実績と基準(マイルストーン)との比較では、コントロールを行う目安としての変動の許容範囲を設定します。基準値からどれぐらい変動した場合にコントロールを行うかを決めます。そして測定値が②で設定した許容範囲をはずれると、③の軌道修正や基準の見直しというコントロールを行います。
軌道修正の方法としては、「即効性のある手法」と「効果的な手法」があります。即効性のある手法は直接的な原因に対処する手法で短時間で効果が期待できます。一方、効果的な手法では原因の背後にある問題にまで目を向け対策を講じます。西欧的な外科手術と漢方薬治療の違いのようなイメージです。
軌道修正だけでなく、目標や基準を修正するコントロールもあります。実績という測定値が常に基準値を超える、あるいは下回るといった場合には、目標や基準の方を修正します。目標や基準値を変更すると、その影響は自らの部下や組織、チームだけに留まらない場合があります。
タイミング
コントロールのタイミングは事前の「フィードフォワード制御」、同時並行的に行われる「同時制御」、事後の「フィードバック制御」に分かれます。フィードフォワード制御は問題が起こる前にコントロールを施すことで、その後のプロセスの円滑化を目指します。
「同時制御」は進行中の出来事に応じてコントロールを行います。現場で起こっているリアルタイムの情報が必要になるため、デジタルによる情報収集だけでなく、人間がもたらすアナログな情報も必要になります。
最も活用されるのが「フィードバック制御」で、一つのプロセスが終了した後でコントロールが行われます。フィードバック制御によりマネージャーは計画がどれぐらい効果をもたらしたのかを踏まえ、その後の対策を講じることにより目標の達成に近づくことができます。また基準や目標の達成度が明らかになることで部下やチームのモチベーションが高揚する効果も期待できます。
【ご案内】当事務所では質問票に回答することにより、マネジメント力を診断・分析する
マネジメント診断 を行っています。
【参考資料】
国家公務員のためのマネジメントテキスト(内閣官房内閣人事局制作・PDF 86ページ)。民間企業でも使えます。
第1章 職場環境・職員意識の変化とマネジメントの必要性
第2章 マネジメントの基盤を作るコミュニケーション
第3章 業務をマネジメントする
第4章 人材をマネジメントする
●基礎からわかるマンジメント・目次
第1章
基礎からわかるマネジメント
第2章
意思決定
第3章 マネジメントの機能
計画・組織化
第4章 マネジメントの機能 リーダーシップ・コントロール (このページ)
オフィス ジャスト アイのトップページへ戻る