人材を活かして育てるキーワード その3
現在の会社におけるポジションで、最も重要とされるのが管理職です。その理由は、DX(デジタルトランスフォーメーション)に象徴されるような仕事を取り巻く技術革新のスピードがアップし、これに「働き方改革」などに代表される環境変化の早さが重なり、現場において高度で専門的、なおかつ素早い意思決定が求められているからです。
かつて「中間管理職」とよばれていた頃の管理職の仕事は、@経営トップの課題を部署内に伝達する、A現場の声を集約して上層部に上げる、B部門間の調整を行う、といったような「連絡」や「調整」でした。しかし、現在のように変化の早い時代には、連絡や調整だけでは十分とは言えなくなってきました。
こうした変化の早さに対応するため、「部」や「課」といった固定的なピラミッド構造の組織の下で仕事を進めることが減り、案件やプロジェクトごとに編成される「チーム」で仕事を進める機会が増えています。その結果、組織はフラット化や流動化が進み、管理職の呼び名もマネージャーやグループリーダーといったように多様化し、役割や機能が急速に変貌しています。
そうした中で管理職に求められる役割は、「部門目標の達成」と「部下・後輩の育成」です。この役割を果たすために必要になるのが
マネジメント です。英語の「マネジメント」に相当する言葉が日本語にないためイメージしづらいのですが、『四苦八苦しながら、やりくり算段をつける』といった表現が近いと言えそうです。
このページでは現在の管理職に求められる「マネジメント」について、お届けします。
目次
管理職の役割とは
管理職に求められる能力
マネジメント能力の向上を図る
その他の環境整備
経営におけるマネジメントとは、戦略を策定し、組織を統制し、部下を育成し、職場環境・組織風土を整備し、日常業務を監督することです。具体的には、経営理念・経営方針を受けて、自分の率いる部門や課、グループの方針を決定します。上位の階層になれば、経営トップから示された課題に取り組むだけでなく、自主的に自らの役割を広げたり、深めることも求められます。
そして担当部門の目標を設定し、計画の立案と展開を行います。部下や社内・社外の関係者を巻き込んで、折衝・調整を繰返し、業務を統率し、コミュニケーションを円滑にし、進捗状況を把握します。リスクに留意しつつ、指導・助言を行い、業務のプロセスを適時見直し、目標達成を目指します。
業務が一段落すれば、結果を検証し、改善すべき点を捉え、関係者にフィードバックを行います。一連のプロセスを通じて部下を指導し、その能力開発を図り、さらなる成長を促します。
これらの詳細については以下のページで詳しく解説しています。マネジメントの全体像を体系的に把握することができます。
- 第1章 基礎からわかるマネジメント
- 第2章 意思決定
- 第3章 マネジメントの機能1 計画・組織化
- 第4章 マネジメントの機能2 リーダーシップ・コントロール
マネジメントにおける一連の行動は、計画(Plan)、実行(Do)、評価(Check)、改善(Act) の頭文字をとって、
PDCAサイクル とよばれています。
「部門目標の達成」「部下・後輩の育成」という管理職の役割を果たす際には、もう一つ課題があります。それは、いかにして部下のやる気を引き出し、組織の生産性を高めるかというテーマです。現在の管理職はマネージャーとリーダーという2つの役割が期待されています。
しかし、多くの企業で管理職はこうした期待に応えられない現実に直面しています。その原因は企業の内部と外部に、それぞれあります。
【内部要因】
時間的・心理的な余裕がない
現在の管理職は部門の目標に責任を負うだけでなく、プレイング・マネージャーとしての役割も期待されています。このため、多忙を極め、部下や組織のマネジメントに時間を割く心理的な余裕がありません。
インセンティブがない
部下を育成することに対してインセンティブ、見返りがありません。人事評価では目標管理制度により短期の結果が重視されるため、人材を育成するような成果を測定することが難しく、時間がかかる課題はどうしても後回しにされてしまいます。
ノウハウと経験の不足
どうやれば組織や部下の生産性を向上させられるのかといった知識やスキル、ノウハウが不足しています。また、長期に渡って新卒採用を抑制してきた結果、後輩を持たないまま昇進して管理職になった人もおり、部下を指導・育成する経験が不足しています。
特に中小企業では人事異動があまりないため、さまざまな上司の下で仕事をするという機会が十分ではありません。そのため、多様なマネジメントに接することが少なく、自分がどのようなマネジメント・スタイルが適しているのかを経験を通じて学ぶことができません。
【外部要因】
経済のソフト化(情報化)、サービス化、グローバル化が進み、企業の提供する製品やサービスには高い付加価値、専門性、効率性、即時性、新規性、多様性、心理的満足度などが求められています。
その結果、企業は意思決定のスピードを挙げるため組織をフラットにして、現場の管理職には経営陣や本社の管理部門が行っていたマネジメントの一部を自らの判断で、自発的に実行することが期待されています。このため管理職には経営者的な視点に立った業務の遂行が求められています。
日本能率協会の『
企業の経営課題に関する調査 2021年』(PDF)では、企業規模別に組織・人事領域で最も重視している課題について調べています。大企業が「次世代経営層の発掘・育成」のなに対し、中堅企業や中小企業にとって最も重要視されているのが「管理職層のマネジメント能力向上」です(P70)
仕事を進める際は管理職が「判断業務」を担い、部下である一般社員は「定型業務」を行うのが基本的なスタイルです。ところが日本の会社、とりわけ大企業では一般社員の能力が高く、彼らが判断業務の一部をこなしています。そのため、大企業では管理職のマネジメント能力の重要性は相対的に低くなりがちです。
これに対し中堅・中小企業では、一般社員の能力レベルが大企業に比べると見劣りし、判断業務まではこなせないというケースが多いため、管理職のマネジメント能力の向上が必須の経営課題になっています。
管理職は名も体も変わりつつあります
【人材を活かして育てるキーワード その他のラインアップ】
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では、管理職に求められるマネジメント能力とは具体的にどのようなものなのでしょう。
管理職に求められる能力、資質は
マネジメント・ディメンション(マネジメントの能力要件・資格要件)とよばれ、さまざまな要因がリストアップされています。その一例は次のようなものです。
- 対人関係能力
- コミュニケーション能力
- 業務処理能力
- 個人的資質
これらは具体的には以下のような要素で構成されます。
1.対人関係能力の要素
- リーダーシップ
- チームワーク力
- 折衝力・説得力
- 柔軟性
- 感受性
- 組織適応力
2.コミュニケーション能力の要素
- 理解力
- 表現力
- 傾聴力
- 文章表現力
- プレゼンテーション力
3.業務処理能力の要素
4.個人的資質
- 影響力
- 活動力
- 自律・統制力
- リスク管理
- ストレス耐性力
これら以外にもマネジメント能力・資質を構成する要因は多数あります。経営陣や人事担当者は
マネジメント・ディメンション(PDF) を参考に、自社の管理職に必要な項目を特定し、活用することができます。
また、アメリカの経営学者であり、ハーバート大学教授のロバート・カッツ(Robert Katz)は、マネジメントに求められるスキルとして次の3つを挙げています。
- テクニカル・スキル (知識・技術)
- ヒューマン・スキル (人間関係力)
- コンセプチュアル・スキル (概念形成力)
テクニカル・スキルとは業務を遂行する上で必要となる知識や技術に関するスキルのことです。ヒューマン・スキルとは対人関係で影響力を発揮する際に必要となるスキルです。コンセプチュアル・スキルとは思案作業から具体的な事象を生み出す思考能力に関係するスキルです。
カッツによれば下位クラスの社員は、主としてテクニカルスキルとヒューマンスキルが求められ、上位階層に進むにつれ、コンセプチュアルスキルのウェートが高まるとしています。
【マネジメント診断のご案内】
当事務所では質問票に回答することで、16項目のマネジメント・ディメンションを明らかにする「
マネジメント診断」を行っています。自らのマネジメント力の現状を正しく理解することが、適切なマネジメントの発揮や改善に繋がります。
リーフレット(PDF) マネジメント診断のページ
なお、マネジメントとリーダーシップを区分けしないまま、一緒に扱っているケースが多々あります。マネジメントは複雑な事象や環境に上手く対処することであり、リーダーシップは将来に向け変革を促すことです。
【マネジメントとリーダーシップの対比】
マネジメント |
リーダーシップ |
沈着冷静 |
情熱的 |
システム中心 |
人・中心 |
制御する |
鼓舞する |
目標・計画 |
進路・価値観 |
現状を前提にする |
現状に挑戦する |
指示する |
方向を示す |
部下を持つ |
フォロワーがいる |
安定を目指す |
変化を楽しむ |
質問票に回答することでリーダーシップとマネジメントのレベルがわかる「
リーダーシップ & マネジメント判定表」を無料でご提供しています。
「カッツ・モデル」と「マネジメントとリーダーシップの対比」を一つにすると、管理職の職務は次のように分類・整理することができます。
マネジメントが受け持つ「維持管理」と「人の管理」の具体的な仕事の中身については、
こちら
リーダーシップについては何かと語られることが多いため、
別ページで詳しく解説しています。また、リーダーシップのスタイルやタイプ、有効性を判定するシートを、
無料ツールとしてご提供中です。
こちらも、どうぞ↓
【雑誌連載記事】
ワークモチベーションの着眼点・管理職 日本の会社と管理職にマッチしたモチベーションについて
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1.研修
多くの経営者や人事担当者は、自社の管理職のマネジメント能力を向上させる必要性や重要性を理解しています。そのため管理職研修が盛んに実施されています。しかし、その多くは同じ階層の管理職が同じ研修を受けるという階層別研修です。
マネジメント・ディメンションやカッツ・モデルで示されているように管理職の能力はさまざまな要因で構成され、個人差があります。全員一律の階層別研修だけでマネジメント能力を向上させるには限界があります。
効果的な研修のためには、対象となる管理職一人ひとりについて、どういったマネジメント能力を伸長・克服・強化すべきかを把握しておく必要があります。その上で個人別に最も必要とされる教育研修を実施することが望まれます。そのためには
マネジメント・ディメンションを用い、自社の管理職に必要とされる要素を選び、それらについて人事評価と同じように個人別の評価を行うことが必要です。しかし、この作業は人事評価以上にハードルが高く、容易ではありません。
そこで当事務所では、マネジメント能力を把握する方法として
個人特性分析 という診断・分析業務を行っています。これは質問票に回答することで、性格や潜在的な能力、モチベーションなどからマネジメントに関係する要因を数値化するものです。個人特性分析の結果を基に、研修テーマに応じて受講すべき管理職を適切に選抜することができます。
個人別の課題を明らかにすることは、次の「実践を通じた能力の向上」を図る際にも必要になります。
2.実践を通じた能力の向上
マネジメント能力を開発・向上させるには、教育や研修によって「学ぶ」だけは十分ではありません。なぜなら、マネジメント能力には学習で身につく要素と、学ぶだけでは身につけるのが難しい要素があるからです。
業務を遂行していく上で必要な「テクニカル・スキル」であるプロセス管理手法や、コミュニケーション・スキルなどは比較的学ぶことが容易です。しかし「コンセプチュアル・スキル」である企画立案力や戦略構築力、他人に影響を与える「ヒューマン・スキル」などは学習だけで身につけることはできません。
そこで必要になるのが実践を通じた能力の向上です。個人別にマネジメント能力を向上させる課題を明らかにして、それらを目標管理制度の目標にします。目標管理制度が導入されていない場合は、人事評価の評価対象にします。
これらは数値化できない定性目標のため、目標達成に必要な具体的な行動目標を定めます。期末評価では行動目標がどれだけ実行されたかというプロセス評価を行います。マネジメント能力向上に必要な課題を目標に定め、人事評価に反映させることで、実践を通じた能力向上を図ることができます。
【関連するページ】行動目標になるマネジメントの実践例は、
こちら
3.多面評価の活用
人は誰でも自分が持っている能力は使っていると思っています。しかし、保有能力と発揮能力は異なり、保有している能力が必ずしも発揮されているとは限りません。
この違いを可視化(見える化)するのが
多面評価(360度評価) です。これは管理職の日頃の判断や行動を上司、部下、同僚といった身近にいる人たちが観察評価するものです。そして管理職の自己評価と観察者評価のギャップや認識のズレを明らかにします。
被験者となる管理職は、上司、部下、同僚から見て、自分の判断や行動はどのように受け止められているのか、マネジメントに関して自分と周囲の人たちとの認識にどのような違いがあるのか、求められる役割と期待に対して、どの程度応えているのか、といった現状を客観的に把握することができます。これによりマネジメントスタイルを見直し、能力開発の方向性を明確にすることができます。
多くの会社では上位の役職や資格等級に昇進・昇格するにつれ、フィードバックを受ける機会が減っていきます。管理職階層になると自らのマネジメントについてフィードバックを受ける機会がほとんどありません。
マネジメント能力を高めるには、まず自分自身が自分のことを知るという「自己による気づき」が大切です。多面評価は管理職に「気づき」をもたらす点で研修と同じ効果があります。当事務所ではこの多面評価(360度評価)を行っています。
多面評価(360度評価)の詳細はこちら
多面評価を活用している企業の実例はこちら
管理職のマネジメント力を高め、社員と組織のモチベーションを向上させるその他の施策としては、次のようなものが挙げられます。
理想像を示す
自社の理想とする管理職像を明確にします。部署や階層の違いを超えて共通する期待・役割像を示します。これが示されないと、一人ひとりの管理職が自分独自の解釈で理想とする行動を追い求め、組織としてのまとまりを欠くことになります。
多様な処遇制度
本来、管理職というポジションは地位やステータスではなく、マネジメントという仕事・役割のために存在します。そのため、すべての人がマネジメントという仕事に適性があるとは限りません。にも関わらず、全員が管理職を目指すという人事のあり方は不自然です。
マネジメントに不向きな人にはプレーヤー、マイスター、プロフェッショナルとして適正に処遇するという多様性のある人事制度が導入されるべきです。経営戦略や直面する課題に応じて管理職を交代させていく、そんな人事のあり方も検討されるべきでしょう。
早期の見極め
日本では管理職への昇進年齢が、入社後10年〜15年と諸外国に比べ遅いのが特徴です。管理職へ昇進するまでの間は、ほぼ全員が横並びで昇格していくため、どうしてもマネジメントの実務経験を積む機会が乏しくなります。また中高年になってから専門職への異動を迫られることになり、専門職として必要なスキルの習得・習熟も難しくなります。
マネジメントという仕事に対する適性を早期に見極め、早めに将来の方向性を決定することが望まれます。小規模なプロジェクチームによる職務遂行や、やりたい目標がある人が手を挙げるリーダー立候補制を導入すれば、早期にマネジメントに対する適性を判断することができます。
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権限の委譲
プレイングマネージャーである管理職がマネジメント能力の向上を図れない原因の一つは、プレーヤーとしての思考や行動から抜け出せないためです。積極的に権限を部下に委譲することで、マネージャーとして行動し、経験を積む時間を捻出させる必要があります。
権限を委譲すれば、これまでよりも周囲に与える影響度が大きく、難度や貢献度も高い目標に挑戦できる環境が整うと同時に、部下を育成することが重要な仕事として浮上してきます。
情報交換・共有
管理職同士が互いにマネジメントに関する情報を交換・共有できる仕組みを取り入れます。具体的には自主的な勉強会・研究会の開催、持ち回りによる自らの実践例のプレゼンテーション、人事評価の模擬演習(シュミレーション)など、同一階層の管理職同士が直接顔を合わせる場を作ります。
役割給への変更
管理職に適用される賃金制度は、仕事や責任の大きさに応じて給料が決まる役割給制度が適しています。職能給では社員という「人」を評価し、資格等級に格付けして給与が決まるのに対し、役割給ではその人が携わっている「職務の価値」を評価して給与が決まります。
つまり、職能給ではポストというイスに座る人を評価しますが、役割給ではポストというイスの値打ちを評価するわけです。評価が決まったイスに座る人は年齢や性別、勤続年数などを問わず、誰でも同じ給与になります。その結果、マネジメントという仕事については「同一労働・同一賃金」になります。
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【ご案内】
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